2024.03.25──化石線路

 線路の敷石に使われている石が約2億年前ジュラ紀のものだと判明してから、百舌橋駅は連日の大賑わいを見せていた。

 それが利用客だけなら百舌橋駅の駅長が頭を抱えることはなかったのだが、残念なことに訪れるほとんどの者が化石目当てのコレクターか小遣い稼ぎの者で、この手の輩は当たり前のように線路に入り込み、石を無我夢中で拾っている。

 地方の過疎駅である百舌橋も、一日に十回は電車が通る。そういう時は駅長がガランガランと鐘を鳴らし、線路の化石泥棒共を追い払うのだが、電車が出発して五分もすれば、連中はまた線路の中に群がってくる。樹液に集まってくるカブトムシのようだと駅長は内心で舌打ちする。

 毎日がそのようなことの繰り返しのため、終業後駅長はいつもヘトヘトになり、すぐ布団に倒れ込む。出来ることなら化石になっている敷石を全て入れ換えたいのだが、そうすると線路を一日中遮断することになってしまい、電車の運行に支障が出てしまう。過疎駅でも大切な動脈の流れをコントロールする弁の一つなのだ。

 そんなある日、駅長がいつものように布団に倒れ込もうとすると、線路の方が緑色に輝いていることに気付いた。こんな真夜中にまで化石泥棒が現れたかと憤慨しながら、寝巻きの上に上着を羽織って駅の方に行っていると、予想外の光景が広がっていた。

 百舌橋駅のホームに、緑色に輝く妙な生物達が並んでいた。そいつらはよく見ると、アンモナイトだのウミユリだの、大昔の海に生息していたものに似ている。これらの生物は、百舌橋駅の化石によく見られるものだ。

 駅長が呆然としていると、遠くの方から、一際大きな緑の輝きが見えた。それは、列車だった。全体が緑色に輝く、輪郭の曖昧な列車が線路を走ってきて、百舌橋駅のホームに到着した。

 列車の扉が開くと、駅に立っていた緑の生き物達が次々と列車に乗り込んだ。駅にいたものが全て列車に吸い込まれると扉がしまり、列車が再び動き出した。

 列車は段々と速度を上げ、ついには遥か遠くの方に猛スピードで消えていった。駅長は列車が見えなくなっても、しばらく線路の先から目を話すことが出来なかった。

 次の日の朝以降、百舌橋駅の線路の敷石から、化石が発見されることはなくなった。

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