2024.03.18──自然調査

 林の中を歩いていると、道に等間隔で何か白いものが落ちていることに気付いた。

 拾ってみると、それはパンの欠片だった。パンの欠片が点々と道の先に続いて落ちている。

「なんだぁ、ヘンゼルとグレーテルでもいるのかぁ?」と笑いつつも、こういう自然環境に人間の食べ物が落とされているのは、あまりよろしくない。地域の者として回収しておこうとパンを一つ一つ拾いながら道を進み始めた。

 しばらく歩くと、落ちているパンは道から逸れて、藪の中に向かい出した。違和感を覚えつつ、木をガサガサと掻き分けながら林の奥へと足を踏み入れる。

 その直後だった。

 突然、頭上から大きな籠が降ってきて、私の体をすっぽりと覆ってしまった。

【やったー! 捕った捕ったー!】

 進行方向からそんな声が聴こえた。おどろおどろしくも清々しいと言うべきか……上手く形容できない声色だった。とても人間が発したような声とは思えず、私はゾッとした。

【いやぁ、これは駄目だな】

 続けて、先程よりも一際低い声が鳴った。【なんでさー!?】と最初の声が問い掛ける。

【これはこの地に昔から居るモノだよ。土地のモノを無闇に減らしてはならない。放してやりなさい】

 低い声がそう言うと、私に被さった籠がグラグラと揺れ始め、次の瞬間、空中へヒューンと飛んでいった。私はすぐに頭上を見上げたが、そこにはもう籠は無く、葉っぱが風に吹かれたようにゆらゆらと揺れているだけだった。

 私は恐ろしくなり、その場から全力で駆け出した。

 走り去っていく自分の背中を、何者かに観察されているような、そんな心地がした。

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