2024.03.17──風船が飛ぶ夜

 満那賢はその日よく眠れず、夜中の時間帯に目が覚めてしまった。

 ふと窓の方を見ると、カーテン越しに赤、青、黄色、緑と、カラフルな明かりが見えた。こんな時間帯に何だろうと、目を擦りながらカーテンを開くと、思いも寄らない光景が広がっていた。

 真っ黒な夜空を、色とりどりの風船が何十、何百も浮かんでいたのだ。

 それらの風船はどれもわずかに光を放っており、クリスマスの季節の鮮やかな電飾よりも華やかで、それでいて幻想的な景色を作り出していた。

 賢は上着を羽織って外に飛び出した。風船は空中に制止しているように見えたが、よく観察すると徐々に上へ上へと上昇しているようだ。夜が明ける頃には、全ての風船が空の彼方に消えてしまう。賢は直感的にそう感じた。

 賢は一つ一つの風船に紐が付いていることに気付いた。風船は頭上よりもずっと高いところを飛んでいるが、ジャンプすればその紐は掴めそうだ。そう思うや否や、賢はその場から駆け出し、助走を付けて一つの風船に飛び付いた。

 そして賢は見事に紐をキャッチした。

 だが喜ぶのも束の間、賢は異常な事態に気付いた。

 紐を掴んだ賢は地面に着地、することはなく、そのまま風船と共に夜空に浮かび出したのだ。風船の浮力とは異なる別の力が、己を引っ張り上げているように感じ、賢は恐ろしくなって紐を持つ手を離した。そのまま賢は背中から地面に落下したが、紐を離すタイミングが早かったのが幸いし、怪我は負わなかった。

 背中を擦りながら賢は顔を上げた。色とりどりの風船が天高く登っていく。その中で、紐を掴んで風船と共に飛んでいく人が数名居るのが見えた。ほとんどがお年寄りの方だったが、一名だけ、同じ団地に住む同年代の子供が混ざっていることに賢は気付いた。

 その子も賢に気付き、にこ、と笑みを向けた。賢はその子に対し、どんな顔をすればよいか分からなかった。

 賢は風船が完全に見えなくなるまで、地面に座りながらずっと夜空を見上げていた。

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