2024.03.15──稲妻を注ぐ
今日は随分と雷が鳴っているな。丁度いいからキミ、このコップに稲妻を注いできてくれたまえよ。博士がそう言うと、助手は首を横に振りました。そんなことが出来るわけないじゃないですか。博士は怒りました。最近の若い奴はやりもしないのにすぐ出来ないと言う。私が若い頃なんて火山が噴火すればマグマを汲みに行かされ、隕石が落ちればグローブ片手にキャッチしてこいと言われたものだぞ。助手は尋ねます。貴方はそう言われた時どうしたのですか。博士は笑ってコップを手に取りました。それを今から実践しようじゃないか。このコップに稲妻を注いでやろうじゃないか。博士は研究所を傘も持たずに飛び出しました。今日は警報も出されている程の悪天候のため、助手は何度も博士を呼び止めました。しかし博士は聴こうとせず、嵐の中でコップを持った手をブンブンと振り回しています。一際、大きな雷が近くの木に落ちました。その衝撃で、博士は地面に伏してしまいます。助手は堪らず研究所から飛び出して博士を抱き起こしました。博士は目を開けるといきなり笑いだし、どうだ注いでやった。この通り稲妻を注いでやったぞとコップを空に掲げました。ガラスのコップは透けていて、背景の荒れた天気がよく見えます。助手が怒ったように言いました。稲妻なんて入っていません。空のままですよと。博士はこう答えました。じゃあキミは稲妻を注いだ状態のコップがどんなものかを知っているのだね。それを私に教えてくれたまえよ。何故答えないのだね。キミは何も知らないくせにこのコップが空だと嘘を吐いたのかね。私は知っているぞ。今このコップに入っているのが稲妻だ。何故なら今私がこの場で掬って入れたのだから。キミが答えを出せないのなら、私の証言こそ稲妻を注いだ確かな理由ではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます