2024.03.14──魔王と矢

 苦難の旅の末、ついに魔王城へと辿り着いた勇者アルゲインだったが、魔王の圧倒的な力の前になす術も無く敗北し、近くの町まで逃げ帰ることになってしまった。

「こちらの攻撃がまったく効かなかった……何か秘密があるはずだ」

「情報を集めましょう勇者様」

 アルゲインは仲間達と方々の町を手分けして探り、そしてついに魔王を倒すたった一つの術を見つけ出した。北の山の古い倉庫にずっと保管されていた「覇浄の矢」。これに貫かれた悪しき者は、どんな強大な身体を持っていようとたちまち浄化されてしまうのだという。

 しかし一つ問題が起きた。

「一本しかないのか? この矢は」

「へぇ……そんな大層な物だとは知らず、不作の年に薪の代わりにしちまいまして……」

 雪山を下りながら勇者一同は頭を抱えていた。やっと魔王を倒す術を見つけたのに、それは手に握りしめた一本の矢に託されているのだ。あまりにも心許ない。

「魔王を射抜く確実な方法を見つけなくてはならない」

「考えましょう勇者様」

 アルゲインは再び国中を周り、色んな道具や術を集めた。大きなモンスターでも破るのに時間の掛かる網。石畳を液状化させて足を取る魔法。爆薬によって炸裂し視界を奪う粘液。

 これらの道具を十分に所持し、アルゲイン達は再び魔王城へと突入した。そして集めた道具のいずれか、あるいは全てが効いたのか、覇浄の矢は狙い通り魔王の眉間に突き刺さり、呻き声を上げた末、魔王は倒れた。

「ついにやったぞ! ……だが、これだけの準備を初めの内にやっておけば……覇浄の矢を使わずとも魔王を倒せたのではないか?」

「しかし、この矢を魔王に刺すという明確な目標があったからこそ、我々はここまで諦めることなくやってこれました。矢は我々に道を示すために必要なものだったのですよ」

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