2024.03.13──放置ロッカー
新幹線のダイヤが大きく乱れた煽りを受け、予定よりも大分早く駅に着いてしまった。
予約しているホテルのチェックインまでかなり時間があるので、ひとまず荷物は駅のロッカーに預けることにした。しかし旅行シーズン真っ只中なこともあり、どこのロッカーも使用中で、中々空きを見つけることが出来なかった。
駅構内を10分以上彷徨っただろうか、エスカレーターの裏側の影になっているところにロッカーが置かれていた。他の場所にあるものよりも随分古いもので、もう何年も放置されているような印象があった。しかしそこのロッカーもほとんどが使われていて、空いているスペースは一ヶ所だけだった。私の荷物を全て入れるには小さなロッカーだったが、とりあえず出来るだけ押し込んでしまおうと私はロッカーの扉に手を掛けた。
「お兄さん、そこはよした方がいいよ」
突然脇から声を掛けられ、私はビックリしてそちらを向いた。背が低く、杖を握った年配の女性がこちらを伺っている。
「そのロッカーはね、曰く付きなのさ。始末に負えないから、駅の連中も手が出せず、ずっとほったらかしている」
「曰く付き? ……しかし結構使用されているようですが」
私がそう投げ掛けると、女性が首を横に振る。
「それらのロッカーが使われたのは最近のことじゃない。どれもこれも随分昔のことさ。だけど、未だに開けられず、ずっとそのままになっている……この意味が分かるかい?」
女性が意味深な笑みを浮かべた。
「持ち主は誰一人として、戻ってきていないということさ」
「……戻ってない?」
私がたじろぐと、女性はヒヒッと小さな笑い声を出した。
「預けた後に何かがあって戻れなくなったか、そもそも初めからここに放置するつもりだったか……いずれにせよ碌な理由じゃないねぇ。あんた、そこに仲間入りしたいのかい?」
女性の言葉を受けて、私の手は完全に止まってしまった。
持ち主が戻らない呪いのロッカー。ここに荷物を預けてしまったら、私の身にも何かが襲い掛かるのか?
その時、思いも寄らぬことが起きた。
突然、向こうの方から二人の駅員らしき人達が駆け寄ってきて、年配を女性を押さえ出したのだ。
「婆さん! まだここに居たのか! いい加減にしなさい!」
駅員の一人がそう言いながら、女性を引き摺るような形でその場から連れていく。女性は何かしらのことを叫んでいたが、あっという間に遠くへ消えてしまった。
残った駅員がロッカーを見ながらブツブツと文句を言ったのが聴こえたため、「どういうことですか」と私は訪ねた。
「あの女性は随分前からこの駅に不法滞在されてましてね。以前にもご退去いただいたのですが、何度も戻って来られるんですよ……そしてどうやって開けているのか分からないのですが、こうして使用していないロッカーを占拠して、自分の私物を収納するスペースに変えてしまうのです」
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