2024.03.11──時は金に成り
一日の生活で「余った時間」を売れるようになってから、人々の暮らしは執拗なまでに効率重視になった。
まず、一つの仕事を進めるの並行して、複数の別の仕事をこなすのは基本だ。家事でも、お風呂を沸かしている間に洗濯物を洗ったり食事を作ったりする。そして作った食事はキッチンの中で食べてしまう。リビングに家族が集まって食事をする風景は随分と珍しくなった。
出勤、通学のバスや電車移動中に仕事や宿題をやる人間も増えた。車両の中に入れば、絶え間なくPCのキーを叩く音、スマートフォンを指で滑らせる音が聴こえてくる。
そうして一日で余った時間を、毎日政府の人が集計に来る。余った長さに見合う金額が口座に振り込まれたり、現金でその場で渡されたという例もある。とにかく、人々はそうやって日々余った時間を売り、コツコツとお金を稼いでいる。睡眠時間を極端に削り、それを売ることで大金を稼ぐような人も居る。
この制度が生まれてから、社会は随分とスムーズに回るようになった。傾きかけていた経済は著しく回復し、地方の都市化も急速に進んでいった。
だが、町を歩く人々の顔は、景気が悪かった頃よりも元気がない。ほとんどの人は目の下に隈を作り、男性も女性も髪を洗う手間を省くため全員スキンヘッド。服装も手間の掛からないシャツ・ズボンスタイル以外の人は居ない。汚れを取る手間を省くため白色の服は廃棄され、全員が黒っぽいものを着用している。
その光景は、過酷な苦行続ける僧侶の集団のようだ。
人々は時間を削ってお金を得るため、休みの日も何処かに出掛けたり、遊んだりもしない。あらゆる欲を捨て去ったこの修行者達は、いずれどのような悟りを得るのだろう。
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