2024.03.10──献花
海から回収したカメラに妙なものが映った。
このカメラはクジラや大型のサメに取り付けることで、その生物の視線に近い形で海中の様子を観察できるものだ。ある程度の時間が立つと身体から外れ、カメラに付いた浮きによって海面に浮かんでくる。後日それを回収し、録画した映像を確認するのだ。今、他の研究者と一緒に見ているのは一ヶ月程前に取り付けた後、回収したものである。
マッコウクジラは深海に潜っているようで、モニターにはクジラの背と暗い海の映像だけが延々と流れ続けていた。このまま深海を進んでくれれば、長年の祈願であるダイオウイカを襲う瞬間を捉えられるかもしれない、そんな期待を胸にモニターを注視していると、段々と白っぽいものが見えてきた。
クジラが近付くことによってその白っぽいものは舞い上がり、海中に白い煙を作る。それはプランクトンの死骸、マリンスノーが沈殿した海底だった。海底まで来て一体何をするのかと思っていると、画面に大きな影のようなものが映った。別のマッコウクジラだ。
その後一頭、さらにもう一頭と集まっていき、クジラ達の数は十頭以上にも及んだ。これ程までの群れが深海、それも海底近くに集まるのは意外なことだったが、さらに不思議な映像がモニターに流れてきた。
カメラが海底の一部の捉えた。そこには、マリンスノーよりもさらに白く、大きな塊が落ちている。研究者である私も、仲間達もすぐに気が付いた。それはクジラの骨だ。全身の骨が、マリンスノーに埋まっている。そしてクジラ達は、その骨を囲むような形で集まってきていた。
クジラの群れの中から、小さい、まだ子供の個体が何かを咥えながら骨に近付いた。子クジラは咥えていたものを骨の近くに落とす。それは、オレンジ色をした小さなヒトデだ。
子クジラがヒトデを落として数分後、クジラ達は何事もなかったかのように、各々別の方向へと泳いでいった。カメラを取り付けたクジラもその場を立ち去ろうと身体を大きく翻したが、その衝撃によってカメラは外れてしまったようで、一頭のクジラが段々と遠ざかっていく姿が映るのを最後に、その不思議な時間は終わりを迎えた。
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