2024.03.08──マイクロシャーク・パンデミック
20XX年。世界中で謎の奇病が流行りだした。
その病にかかった者は、突然苦しみだしたと思うと、瞬間、身体が隅から抉られはじめ、やがては肉体が虚空に消滅してしまうのだ。
人々はこれを「ショク風」と呼び始め(ショクは人によって食か蝕、あるいは触の字が使われる)、予測の出来ない死の恐怖に怯えていた。
ショク風が発表されて一年半が過ぎた頃、一人の科学者によって思いも寄らぬ報告がされた。その人物は御神楽ツヅミという著名な海洋生物学者で、ショク風に罹ったイルカの遺骸を観察した際に、偶然その事実に気付いたという。
ショク風の正体は、細菌でもウイルスでもない。
それは極めて微小な、サメだというのだ。
その大きさわずか1.3μm。この微小ザメは主に海の近くの大気中に生息しており、有機生命体が近づくと襲いかかって細胞を捕食し始める。彼らは両性具有で、細胞を食らって得たエネルギーを使い、瞬く間に増殖する。これを繰り返すことで、襲われた生物は数億とも数兆匹ともいえる微小ザメに食い尽くされ、あたかも虚空に抉り取られたように見えるのだ。
御神楽博士は上記の発表をした後、すぐさまショク風の対抗策を挙げた。それは彼女の研究室で産み出されたもので、ショク風と同等のサイズの微小な「シャチ」であった。シャチはサメの天敵であり、これを町中に散布して、逆にショク風を捕食させるというのだ。
勿論すぐに反対意見が出た。シャチが食べるのはサメだけではない、人間も捕食対象になり得るだろう、と。だがこの意見に御神楽博士は首を横に振った。
彼女らが品種改良したこの微小シャチは、かつてサメ達に生息圏争いで敗れたシャチを祖としている。そんなシャチ達を何百体も掛け合わせて造られた微小シャチは、その知性のほとんどをサメに対する憎悪で満たしている。だから人間よりもショク風を必ず優先して襲う習性なのだ。
結果的に御神楽博士の対抗策は、大成功に終わった。世界に放たれた微小シャチはその蓄積された憎悪に従い、ショク風の元たる微小サメを食べ始めた。
シャチが放たれてわずか二月で、ショク風による被害は一件も報告されなくなった。
そしてサメを襲うという知性しか持ち得ない微小シャチ達は、地上に蔓延る微小ザメの消滅に伴い、急激に個体を減らして、やがて全てが居なくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます