2024.03.05──ザルな刑務所
田舎のスーパーだからと出来心で強盗を働いたら、警察の動きがやたらと早く、俺は刑務所にぶち込まれてしまった。しかも、たかだか3,000ドルの盗みで30年も塀の中に居ないといけないらしい。冗談じゃないぞ!
こうなるともう脱獄するしかない。不幸中の幸いか、この刑務所は今時レンガ造りの古い建物で、牢屋の壁に穴を掘るには苦労しない最高の物件だ。夜な夜な看守の目を盗んで、俺は飯を食うときのスプーンを使い脱出口を掘り始めた。ある程度掘れると、レンガを元の位置に組み直して穴を隠す。
穴掘りを続けること一週間。右手に握るスプーンがボコッと壁を貫通して空を切った。ついにやったぞ、と喜んで到達した空間に顔を突っ込ませると、俺は意外なものを目にした。
「ちゃ……チャールズ?」
その髭面の顔は、俺と同じように這いつくばり右手にスプーンを持った状態でそう呟いた。隣の房のマイルズだった。
懐かしい顔ではない。俺と一緒に盗みを働いたチームメイトだし、今は刑務所で毎日顔を合わせるクラスメイトだ。しかしこの現状、奴と一緒に居るのは厄介だ。大男が二人並んで穴を掘っていると看守に見つかる危険性は高くなる。
マイルズもそれを理解したようで、俺たちはお互い曖昧に笑ってからそれぞれの別の方向に穴を掘り出した。
またしばらく掘っていくと、再びスプーンが空洞に達した。俺は感極まりその空洞に顔を突っ込ませた。
「ち、チャールズ?」
今度はウェールズの顔がそこにあった。そいつも這いつくばってスプーンを握っている。俺はさすがに愕然とした。
すると、後ろの方で「ミルズ!?」というマイルズの声が聴こえた。おいミルズの奴もか!? みんな穴掘り屋さんに転職してんのか!? 俺が言うのもなんだが看守の奴は何やってんだよ!?
「各囚人、全員順調に穴を掘っているようです」
「呆れた連中だ」
監視室の大きなモニターを見ながら、刑務所長はコーヒーを啜った。
「新しい刑務所の建設が決まったはいいが、予算も人手もまるで足りずどうしたものかと思っていたが、囚人共に作らせてしまうというのは良いアイデアだったな。昼間は労働という名目で資材を作らせ、夜は隙間だらけの房に入れて穴を掘らせる。職人が揃うまでの時間稼ぎのつもりだったが、こりゃあ囚人共の力だけで三割は進められそうだ」
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