Mar.

2024.03.01──馬車の帰り道

 馬車に乗り込んで十分ほど走らせたところ、道端の老木の根本にうずくまっている塊を見付けた。

 餓えか病気かで動けなくなった人だと思い、馬車を停めて近くに駆け寄ると、それは実に珍妙な物体だった。

 成熟した雄牛のようにガッシリとした体つきで、刈り取っていない牧草のようなボサボサの毛で全身が覆われている。顔は獣とも、人とも取れる作りであり、その額からはカタツムリの触覚のような角が生えている。

 こんな人ならざる怪物が、なぜこのような、一番近い町から1キロも離れていない場所に居るのだろうか。私はしばらく考え込んでいたが、不意にそいつが唸り声を上げた。油の切れたタービンのような声だ。

 怪我か病気かは分からないが、どうやら弱っていることに違いはないらしい。私は馬車から御者を呼び、二人がかりでそいつを馬車の荷台に乗せた。こんな生き物を診たことはないが、私はこれでも医者の端くれだ。とりあえず自宅に運んで、入院患者用の離れに置いてやるとしよう。

 御者が鞭を振るい、馬が走り出す。私と毛むくじゃらの患者とで相当の重さがあるはずだが、馬は何食わぬ顔で自宅までの帰り道を快走した。

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