2024.02.29──百回忌

 今日はご先祖の百回忌のため、五年ぶりに地元に帰ってきている。

 百回忌。つまり亡くなられてから百年目の人だから面識も何もあったものじゃないのだが、この人は地元のちょっとした名士であり、幼い頃より祖父母や小学校の先生によく武勇伝を教えられたものだ。

 ちなみに先祖といっても、わたしは直接の家系の者ではなく、幾つか分かれた子孫達の末端の一人である。そしてそういう子孫が他に何百人といるため、百回忌は地元としては大盛況なものになる。

 自分の父(と付き添いの母)、祖父母を初めとした親戚一同の他に、地元に居た頃の見知った顔もいくつか見かけた。あの人達ともどこかで血が繋がってるんだなぁ、と呑気に会場の入り口で貰った甘酒を啜っていると、思わぬ人物を見付けて盛大にむせてしまった。

 それは小中同じ学校に通っていた尾堂咲恵だった。わたしの友人の一人であり……密かに恋心も抱いていた子だ。

 彼女もわたしに気付き、一瞬驚いた顔してから、笑顔でわたしに手を振った。わたしも逡巡してからぎこちなく手を振り返した。笑顔で出来た自信はない。

 咲恵とわたしは、血が繋がっている。

 そう思うと、どういうわけか気持ちが沸いてきた。わたしは咲恵が違う人と話している隙を見て、一人会場を抜け出した。

 外に出てから空を見上げると、雲一つない快晴だった。この百回忌の主役が子孫達をよく観察するための、天の計らいなのだろうか。

 郷土資料館でしか見たことのない先祖の顔が、青空に透けて見えるような気がした。癪に障ったわたしは、空になった甘酒の紙コップを空に投じた。

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