2024.02.28──境内の木

 近所のお寺の境内を歩いていると、笠を被った修行僧らしき方に話しかけられた。

「もし、何か飲み物を持ってはいませんでしょうか」

 今日は季節の割りに気温の高い日だったので、その坊さんも喉が乾いたのだろうかと私は思った。幸い、先程コンビニで買ったペットボトルのお茶を未開封のまま持ち歩いていたので、それをお坊さんに渡した。

 お坊さんは「ありがとうございます」とお礼を言うと、ペットボトルのキャップを外した。

 そしてそのままそれを飲むかと思えば、おもむろに自分の足元にジョボジョボと流し始めた。何をするんですか、せっかく渡したのに、と私が問おうとしたところで、異変が起きた。

 お茶をかけられた地面から植物の芽のようなものが出たと思うと、それが急スピードで成長し、天まで届く大木に変わった。

 私が愕然としている間に、お坊さんはその木に捕まって、そのまま空に向かって上っていく。お坊さんは私を見るともう一度「ありがとうございます」と言い、そのまま空の向こうの見えないところまで行ってしまった。

 その時の木は今もお寺の境内に生えたままだ。出来事があったのは一週間前くらいなのに、その大木は何百年もそこに居続けている重鎮のようなふてぶてしさで、今日もお寺に来た人々を見下ろしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る