2024.02.26──埋めもの

 愛犬のスピカの物を地面に埋めるという癖には普段から困っているが、今日はことさら困っている。まさか山を登っている時に家の鍵を私から奪ってそれをどこかに埋めてくるとは。私のことが嫌いなのかお前は。

 スピカに説教をして車の中に残してから、私はシャベルを持って一人地面を掘り始めた。スピカは鍵を奪った後すぐに戻ってきたので、ここら辺の近くに鍵は埋まっているはずだ。

 一つ、二つ、三つ……ざっと十もの穴を掘ったが鍵は見つからない。このままだと日が暮れてしまうぞ。

「何をされているのですか?」

 突然後ろから声を掛けられて、私は飛び上がりそうになった。振り向くと、私とそう歳の変わらない男性が訝しげにこちらを見ている。

 地元の方だろうか。見知らぬ男が山をシャベルで掘っているのはさぞ不審に見えるだろう。これ以上彼を不安にさせて通報でもされたら事だ。私は正直に事情を話すことにした。

「いや実は……飼い犬に家の鍵を埋められてしまいまして」

「……驚いた。あなたもですか」

 男性の予想外の回答に私も目を丸くした。男性は続けて話す。

「私も愛犬のポチに鍵を埋められたのですよ。だからこうして探しに来たのですが……そこにある車は私のですが、ポチの奴はそこで待たせてます」

 男性が指を差した場所を見ると、いつからあったのだろう、青色の乗用車が停められていた。そして男性をよく見ると、彼もシャベルを手にしている。

「どうでしょう、ここは協力してお互いの鍵を探しませんか?」

 男性の提案に私は素直に喜んだ。

「それは助かります」

「いえいえ、お互い様ですから」

 そこから先は男性と二人で地面を掘っていった。十分もすると、そこらが穴だらけになった。

 そして何十個目の穴になるだろうか。底の方にキラリと光るものが見えた。私はシャベルを投げ捨て穴の中に手を突っ込んだ。

 やった。これだ。私の手の中には見慣れた鍵が握られていた。

「……見つかりましたか」

 後ろの方で男性の声がした。声に元気が無かったため、男性の方は全然だということだろう。

「ええ、やりました。次はあなたのを──」

 そう言いながら後ろを振り向こうとした。

 突如、山の中で銃声のようなものが響いた。

 初めは何が何だか分からなかった。程なくして、男性が右手を抑えながら地面をのたうち回っているのに気付いた。右手からは血が流れている。

 私達の元に走り寄る足音がした。振り向くと、二入の警察官がこちらに来ていた。一人が男性を押さえ込み、もう一人が私の手を取って話し掛ける。

「お怪我はありませんか! あの男は今、あなたをシャベルで殴ろうとしていたのです……距離があったためやむなく発砲いたしました」

「どういうことですか?」

 混乱する私に、警察官は説明した。

「あの男は自分の妻を殺して、警察から逃げていた者です。この山には遺体を埋めに来たのでしょう。そこの車の中にブルーシートで包まれておりました。……ところで、あなたはここで何を?」

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