2024.02.24──家が落ちる日
世界中を巻き込んだ大異変により地表の全てが更地となって早二年。「家持たず」となりずっと彷徨い歩いていた私にもついに好機が訪れた。
夜の時間。二年前は河川敷だった、今は枯れて細長い砂地になった川の跡を歩いていると、東の空の一点がキラリと光った。
その光りは消えず、逆に段々大きくなっていく。こちらに向かって落ちてきているということだ。私は狂喜し、背負っていた全財産をその場に投げ捨て、落下してくる光を走って追った。
今は夜の時間帯。近くに人の気配はないが、いつどこに「ライバル」が潜んでいるか分かったものじゃない。国家も法律も無くなったこの地上だが、これに関しては「早い者勝ち」というルールが人々の間で暗黙の了解となっている。
光が落ちる。どんどん大きくなっていく。私の近くには誰もいない。光が近付く。その輪郭がハッキリ見えてくる。
大きさは一人で暮らすには中々だ。ドアがある。嬉しいことに窓もいくつか付いている。ああ、光が落ちる。他には誰もいない。この光が間もなく私のものになる。
そしてついにそれは、私の目の前に着地した。大きな振動もなく、鳥の羽がゆっくりと落ちるように。
光の正体は、家だ。大異変の際、粉々にされた地上の町、都市の残骸が、宇宙空間に放逐されたもの。それらはスペースデブリとなって普段は地球の周りをクルクル周回しているが、稀にこうやって地上に落下してくる。
なぜかそれらの家は、成層圏で燃え尽きることなく、さらに地表に激しく叩きつけられることもなく、ありのままの形で人々の前に落ちてくる。それは住む場所を失った人に天から与えられるギフトだと、いつしか人々の間で語られるようになった。
そして、ついに私もギフトを受け取る日が来た。もう宛もなく彷徨う必要はない。帰る場所は、今目の前に与えられたのだ。
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