2024.02.23──ジャングルと巨大ロボ

 僻地探検隊! ジャングルの奥地で未知の巨大生物を見た!! の撮影で訪れていたタレント俳優と撮影クルーは、ジャングルを探索中に人工物のような鉄のゲートを発見し、それが反政府組織により秘密裏に建設されたアジトだと気付いた時には見張りの兵士達に囲まれてしまい、全員アジトの中に連行された。

「見たまえ。これが我々が政府に対抗する為に開発した戦闘兵器バシリスクだ」

 兵士達のリーダー格と思われる男が言った。一同の目の前には、高さ30mはある巨大な人形のロボットが十体以上並べられている。

「……まさか巨大生物の正体がロボットだったなんてな」

 チーフディレクターが小声で呟き苦笑した。

「どうします? これはこれでスクープですが……撮影機材の一式取り上げられちゃいましたよ」

「ただでさえ現地でも見かけない珍しい動物とか撮れてたのになぁ、勿体ないよ」

 クルー達がヒソヒソ話をしていると、リーダー格の男が持っている杖で金属製の床を叩いた。

「無駄話をするな貴様ら! どうやらまだ自分達の置かれている現状が分かっていないそうだな?」

 男がパチンと指を鳴らすと、バシリスクの一体がゆっくりと動き始めた。男が不適な笑みを浮かべる。

「バシリスクはもうほぼ完成している。だが政府に挑むにはまだ大事なデータが足りないのだ……逃げ惑う人間をどう狙って撃つかというデータがな」

 男が撮影クルーに振り向く。

「ここに居る大事な同志達で試すわけにはいかず困っていた時に、ちょうどよく貴様らが来てくれた。是非とも貴重なデータを提供してもらおうか」

「待て!!」

 ここでずっと黙っていた俳優の荒鷲政親が手を挙げた。

「その役なら、私が請け負おう……私はここに居る者の中では一番動ける自信がある。お前達の欲しがるデータも十分に手に入るだろう……その代わり、他の皆には一切手出ししないことを約束してくれないだろうか」

 ほう、と言って男が杖を口に当て、荒鷲に返答する。

「よかろう。もし貴様がバシリスクを前にして一分間生き延びれば、他の連中とは言わず、全員の命を助けてやる」

「感謝する」

 荒鷲はそう言い、着ていた上着を放った。四十代の荒鷲だが、鍛えられた身体は二十代後半と言われても信じてしまいそうだ。

 荒鷲がバシリスクの前に立ち、バシリスクがギッギッギッと音を立て始める。

「ふっ……馬鹿が。一人の人間が我々の開発した戦闘兵器を前に一分も生きられるものか」

 男がほくそ笑み、再び指を鳴らした。

 バシリスクの胸部が開き、弾丸が発射された。

 荒鷲は床を転がってそれを回避する。

「チッ、偶然予測して避けたか。とっととトドメを刺してやれ」

 男の言葉に応えるように、バシリスクは向きを変えて、荒鷲の転がった方に再び弾丸を発射する。

 しかし荒鷲は再びそれを転がって回避した。男が驚愕する。

「は……はぁ!? なんで!? なんで人間が銃弾避けられるの!?」

 チーフディレクターが頭を掻く。

「あーあーロボットの癖に狙いが悪いなぁ。あんな弾道が見え見えの攻撃でアクション畑の荒さんが捉えられるかよ」

「荒さん今でもスタントマン使われませんもんね」

「すんませーん、もう三十秒経ちますけどー」

 タイムキーパーにそう言われ男が激昂する。

「ええいバシリスクを舐めるなよ!! 銃がダメなら足で踏み殺せ!! この狭い基地の中で躱しきれると思うなぁ!!」

「自分で自分の基地狭いって言うんだな」

「気にしてるんじゃないすかね」

 クルー達の会話を他所に、バシリスクがその巨体には似合わぬ素早さで荒鷲目掛けて足を振り下ろす。

 荒鷲は寸前で躱し、ロボットの足踏み音が狭いアジトに響き渡る。

 しかし、今度の荒鷲は避けるだけではなかった。

「感謝する。このタイミングを待っていた」

 そう言うなり、荒鷲はバシリスクの脚に飛び掛かり、そのまま素早い動きで身体を登り始めた。

「なにぃ!?」

 男が驚く間に、荒鷲は頭部のコックピットまで辿り着き、そこを力付くで開いて、中に乗っていたパイロットを引っ張り出した。

 そして、その中に荒鷲が乗り込む。

「よし! 機体を奪ったぞ! このままこれに乗って脱出しよう!」

 男が愕然とする隙を突いて、撮影クルーがやっほーいとバシリスクの近くに走り寄る。

「すげぇや荒さん! こんなの操縦できるの?」

「荒さんは元土方で重機の国家資格持ってんだぞ? 何にでも乗れるさ」

 クルーが全員バシリスクに乗り込むと、そのまま荒鷲が操縦するバシリスクは他のバシリスクを破壊し、基地を壊滅させ無事にジャングルを脱出した。

 そんなわけで、今でも某テレビ局の横には巨大ロボットが置かれているのである。

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