2024.02.21──小さい魚

 北則放人は近くの小川で一円玉大の小さな魚を網で掬った。

 見たことのない魚で、もしかしたら外来種かもしれないと思ったが、鱗が光の反射で虹色に光るその魚を美しいと思い、持って帰って飼ってみることにした。

 昔、金魚を飼っていた古く小さい水槽を物置から引っ張ってきて、ひとまずその中に魚を入れる。フィルター等の部品は残っていなかったので、明日ペットショップで餌と一緒に買うとしようと考えながら放人は眠りについた。

 次の日思わぬことが起きた。昨日水槽に入れた時は一円玉程の大きさしかなかった魚が、水槽いっぱい、ハンドボールくらいの大きさまで成長していたのだ。

 放人はまさかと思い、急ぎペットショップに向かって餌やフィルターには見向きもせず、ワンサイズ大きい水槽を購入した。それを持ち帰り、ハンドボール大になった魚を入れ、ゆっくりと様子を見てみる。

 放人の予想は当たった。違う水槽に入れられた魚は、さらにその水槽一杯になるまでみるみる内に成長したのだ。つまり、この魚は入れられた容器が大きいほど、その体を大きくするのだ。

 となると、と放人は頭を抱えた。水槽を大きくすればそれだけ成長してしまうのだから、成長に会わせて水槽を換えていくと、その内部屋を圧迫するほどこいつは成長してしまう。

 かといって、今さらこいつを川に逃がすというのも考えものだ。掬った時なぜこいつが一円玉大だったのかは分からないが、もしこいつを川に放って、こいつが川幅に沿って成長を始めたら……そのまま流れに乗って、海にまで出たら……。

 仕方なく、放人は今も水槽にぎゅうぎゅう詰めになったバスケットボール大の魚と一緒に暮らしている。餌を与えても食べようとはせず、フィルターや酸素ボンベを付けなくても特に問題なく生き続けている。放人は時々魚に話し掛けてみるが、魚は何も返さずただ鱗を虹色に反射させるだけだ。

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