2024.02.20──ティッシュ箱の空間
上橇伊澄がティッシュ箱に残った最後の一枚を思いきり引っ張ると「ひょごっ」という聞き慣れない音が鳴った。
不思議に思った伊澄が空になった箱を除くと、箱の底が真っ暗で何も見えない。試しに手を穴から突っ込んでみると、どれだけ入れても指に何も触れない。ついには腕の根本まで穴に入れるが、それでも手はどこにも届かない。
床に穴が開いているわけではない。その証拠に、箱を持ち上げて手を入れても、箱の反対側から手が貫通することなく、ただスルスルと穴の中に入っていくのだ。これは突然、ティッシュ箱がどこか別の空間に通じてしまったのだと伊澄は判断した。
伊澄は箱の中の空間がどうなっているか気になった。しかし手や腕が入っても、身体を入れるには穴も箱も小さすぎる。穴から覗いてみても真っ暗で何があるか分からない。
そこで伊澄は急ぎ近所の玩具屋から小型のドローンを買ってきてそれに小さなライトとカメラを取り付け、穴の中に侵入させてみることにした。カメラで撮られた映像は、伊澄のスマホのアプリを通して確認が出来る。
さっそく伊澄はドローンを上手く操作して、箱の中に侵入させることに成功した。ドローンに取り付けられたライトが箱の中の空間を照らし、カメラによって撮られた映像が伊澄のスマホに送られてくる。そこはまるで誰かの部屋のようで──
次の瞬間。ドローンは「なにか」にぶつかり、突然映像が途切れた。
伊澄は数秒の間固まっていたが、急に立ち上がったと思うと、ティッシュ箱を足で踏みつけて潰し、外に飛び出して潰したティッシュ箱をライターで燃やしてしまった。
伊澄のスマホに最後に送られてきた映像、そこにはライトで照らされた真っ黒な手のようなものが映っていて、手はドローンを掴むような形でカメラに覆い被さり、そこで映像は終わった。
その映像自体は伊澄がすぐに消去したため、詳細を調べることは出来ないし、伊澄はそうしたいとも思わない。ただ、伊澄は今でも時々こう考える。
ドローンを侵入させる前に手を突っ込んでいた時、その手をあの黒い手が掴んでいたら、どうなっていたのだろう、と。
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