2024.02.17──虹を見た

 小学生の頃、授業の一環で育てていた朝顔にジョウロで水をやった時、綺麗な虹が出来た。

 その虹に魅せられた僕は、もっと大きな虹が見たいと思うようになった。雨が降った日は、その雨が止むまでずっと外に居て、雲の切れ間から日が差して空に大きな虹が掛かるのを待った。


 大きな虹をもっと間近で、もっと大きく見たいがために高いところに上るようになった。住んでいたマンションの最上階、立ち入りが禁止されている学校の屋上、駅前で一番大きなビルの屋上。

 やがて地元の山にも積極的に登り始め、いつしか登山が趣味となり、高校、大学に入る頃にはワンダーフォーゲル部に入部して、全国津々浦々の山に登った。


 社会に出ると僕は登山家になり、普段は地元の名山で登山ガイドをやりながら、さらに多くの山に登るようになった。

 山登りは僕の趣味であり、天職だったが、僕の本当の目的は、より大きく、より美しい虹を見ること。それを思い出したのは、富士山の登頂に成功して日本一の高さから朝焼けに照らされる巨大な虹を見た時だ。

 この国では、これ以上に大きな虹は見られない。しかし、世界にはまだまだ高い山があり、そこからならさらに大きな虹が見られるだろう。しかし、それらの山も踏破してしまえば、もうそれ以上を望むことは出来ない。僕は今後の進路について真剣に考えた。


 現在、僕は国際宇宙ステーションに勤めている。30を超えてからの宇宙飛行士への転身は周囲から無謀だと言われたが、僕は虹への憧れをバネにそれを成し遂げた。

 ステーションの窓からは、太陽の輪とも言うべき巨大な虹がよく見える。しかし宇宙には、まだまだ巨大な恒星があり、そしてまだまだ巨大な虹がある。

 虹への飽くなき探求は、まだまだ続く。

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