2024.02.14──自由帳の漫画

 友人の鳥場は自由帳に漫画を描いている。

 授業の合間の短い時間やお昼休み、鳥場は自分の席から一歩も動かず、鞄から取り出した自由帳を広げ漫画を描く。

 その習慣を鳥場は小学生の頃から続けている。当時は鳥場の描いた漫画をクラスメートで読み合い、見んな早く続きを描いてくれと鳥場にせがんでいた。

 自由帳を持っている子は、鳥場に続いて漫画を描き始めたりもした。最終的には十数人のグループで一緒に漫画を描き合うようになり、俺もその内の一人だった。


 しかし中学、高校と上がっていくに連れて、自由帳を持っている生徒の数は減っていき、ましてやそれに漫画を描く人間などほとんど居なくなっていた。クラスメイト達もいちいち自由帳など読まずとも、家から持ってきたちゃんとした漫画を先生に隠れて読むようになった。

 俺も漫画を描かなくなり、ついには自由帳に漫画を描き続けている生徒は鳥場ただ一人だけになった。


 不思議なのは、鳥場は漫画研究部に入ってちゃんとした原稿やペン(最近だとPCなのかな)を使って漫画を描く様子はなく、あくまで自由帳に鉛筆やシャーペンで描いたお粗末な漫画を描き続けていた。途中で辞めた人間が言うべきことではないと思うが、絵のクオリティも小学校の時からほとんど変わっていないように見えた。

 大学生になる頃、俺は地元を引っ越して鳥場とはまったく合うことが無くなった。社会人になった今も、あいつが今どこで何をしているか、何も分からない。


 不意に鳥場のことを思い出したのは、出張で泊まっているビジネスホテルの中でだった。

 あいつが自由帳に鉛筆で描いたお粗末な漫画。大人になって色んな作品を見たのに、何故か今、無性にそれが読みたくなった。

 ふと、俺の目にあるものが映った。電話の横に置いてある小さな無地のメモ帳だ。横にはボールペンも置かれている。

 俺はしばらく考えてから、そのペンを取って、無地のメモ帳に線を引き始めた。

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