2024.02.13──サラマンダー通りを左に
サラマンダー通りを左に八度回り、日課の散歩を続けること十五分。僕は緋子叔母さんに出会った。
叔母さんは巨大なヤモリと一緒に散歩をしていた。名前はヒノカルゲン。僕が生まれた頃には既に叔母さんの家の子で、最近は日中動かなくなる時が増えてきている。そろそろお迎えが近いのかもしれない。
緋子叔母さんはヒノカルゲンを病院に連れていきたいのだけど、方角はどっちかしらと僕に尋ねた。僕は右に十一度の向きを示し、叔母さんはお礼を言ってヒノカルゲンと共に歩いていった。叔母さんの後ろ姿もヒノカルゲンの後ろ姿も、この通りにとても自然に溶け込んでいるけれど、その姿もいずれ無くなると思うと、僕はやるせない気持ちになる。
気分を改めてサラマンダー通りを中央に三十度曲がって歩いていくと、今度は梢雄伯父さんに出会った。
伯父さんは首に巨大カナヘビの剥製を巻いている。三年前まで生きていたアルシャンバという名前の子だ。アルシャンバが死んだ時、伯父さんは悲しみのあまり彼女を埋葬することが出来ず、こうして剥製にし、四六時中自分の首に巻いて過ごしているのだ。
失礼、ここいらに洒落た帽子屋はあるかね、アルシャンバに被せてやりたいのだと梢雄伯父さんが僕に聞いた。僕は縦に二百三十度を表し、伯父さんは僕にお礼を言ってアルシャンバと共に立ち去った。
伯父さんが悲しみを乗り越えられる日は来るのだろうか。その時はまた新しい子をお家に向かえ、次の数十年を共に過ごすのだろう。
僕は下に八百三十度屈んで、再びサラマンダー通りを進んでいく。
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