2024.02.10──モンスタービジネス

「なんてこった……討伐依頼も出ていないのにモンスターを殺めてしまったぞ」

「急に茂みから襲ってきたんですから仕方ないですよ」

 相棒の剣士が得物に付いた血を拭いながらそう言い、俺は「そうだよな」とひとまず納得してモンスターの死骸に近付いた。

「ニードルリザードか……町中で暴れている奴を仕留めたら結構な金になったろうに、ここじゃあなあ」

「貧乏臭いですよ」剣士が剣を鞘に納める。そう言うこいつだって使い古した剣をいつまでも買い換えない癖に。「モンスターが町を襲わないのは良いことじゃないですか」

「良いことったって討伐対象が居なけりゃ、俺達の仕事もないじゃないか」

 数ヵ月前、モンスターを従えて世界を混乱に陥れていた魔王が、勇者とかいう連中に倒されて以来、モンスターはすっかり大人しくなり、野や山で慎ましく暮らしている。

 勇者は国から莫大な恩賞を貰って良い暮らしをしてるそうだが、モンスターを討伐して日銭を稼いでいた俺達のような手合いは、仕事が極端に減って生活が逼迫している。魔王が居た間、町を守ってたのは俺達だというのに。この化け物トカゲだって、もし町に出ていれば……。

「……待てよ。いいこと思い付いたぞ」

「どうせろくでもないことことでしょ」

 剣士はそう言って溜め息を吐くが、こいつが俺の提案を蹴ったことはない。俺は自分の考えを伝え、すぐに計画に掛かった。


 一ヶ月後。近くの町をニードルリザードが襲った。田畑は荒らされ、家屋も数件が損傷した。

 すぐにニードルリザード討伐依頼が出され、同業者達が我先にと町を飛び出していく。しかし俺は慌てず"アジト"に戻り、翌日、ニードルリザードの死骸を伴って町に戻った。町長は喜び、報酬を払った。久々の給金だ。

 その結果に満足し、俺はアジトに帰る。扉を開けると、エプロンに手袋をはめた剣士が出迎えた。いや、最早剣士と言うべき見た目じゃないが。

「『奴ら』は?」

「元気なもんですよ」俺の質問に剣士がフンッと鼻を鳴らして返す。「しかし、あなた戦うことと銭勘定しか出来ないと思ってましたが、こんなことも知ってるんですね」

「ずっと討伐をやってりゃあ、モンスターの生態に詳しくなるもんだ。犬猫を飼うよりも楽なくらいだ」

 俺は笑って、アジトの奥の扉を開けた。

 そこには柵で区切られた空間があり、その中にニードルリザードが十数体ひしめいている。

「また数週間後にこの"牧場"からトカゲを放つ。短いスパンだと怪しまれるからな。いずれ違う町への派遣も視野に入れよう……勇者の居る町に送り込んでやって、奴らに恩を売るのも悪くねぇな」

「極悪ですよ、あなたは」

 剣士は溜め息を吐いて、ニードルリザードに餌を撒いた。

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