2024.02.09──歩行打鍵会話術
こいつは驚いた。旅の途中に入った町を適当に練り歩いていたら、思わぬことに気付いた。
先程まで石畳だと思って歩いていた道は、よく見れば大小様々なキーが散りばめられた、巨大なキーボードだったのだ。
キーに足をのせると地面に沈み、カタッという音を発する。道理で連日の晴天にも関わらず、泥濘か雪の上を歩くように足が重いと思ったのだ。
しかし、キーを打ち込むということは、どこかに文字が表示されるということ。私は周囲をチラチラと見回してみる。
すると、道行く人達の頭上に、何やら小さい文字が浮かんでいることに気付いた。その人達が歩き、キーを踏み込むと、頭上の文字も一字増える。
なんと。ここに住む人達は喋る代わりに、道のキーを踏んで言葉を作り、それで会話をするのか。寡黙な人が随分多いと思っていたが、実際はみんな常に話を続けていたのだ。
そういえば、もしかして私の頭上にも文字が表示されているのだろうか、と目線を上向けてみると、私はそこに浮かんでいる文章を見て顔を赤くした。いや、これは文章とは言えないだろう。支離滅裂なことを喋り続ける変人が来たと、町の人達に笑われてしまう。
私は急ぎ、今日泊まる宿の在処を尋ねる言葉を打ち込むため、慎重に道を見ながら歩みを進めた。
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