　あの未曾有の大地殻変動が起きた後、世界は三つの大河により四つの大陸へ分断された。

　復興が進み、人々の生活が落ち着いてくると、文化は自ずと大河に寄り添って発展する。

　この国では「川滑り」が国民的スポーツとして人々に親しまれ始めた。一人ひとりが規定のサイズ、重量をクリアしたボートを手作りし、そのボートに乗って大河の定められたコースを進む早さを競う競技だ。

　ヤス・トウシはこの川滑りのチャンピオンで、始めて優勝した十年前から未だ無敗の、最強のボート乗りである。

　国内に自分を倒せる相手が居ないことを悟ったトウシは、ある夢を抱き始めた。それは自分のボートで大河を渡りきり、分断された隣の大陸に上陸することだ。

　しかし、それがどれ程危険な行為であるかを、この国に住む者は皆知っている。大河は大地殻変動の折りに淡水、海水の生物達が混ざり合い、壮絶な食物連鎖の末、人類には太刀打ち出来ないような怪物が多く生息するようになってしまった。安全な場所は、人々が暮らす大陸の沿岸部のみなのだ。

　それでもトウシは夢を諦めなかった。十年で蓄えたチャンピオンマネーを全て費やし、スポーツとしての規定に収まりきらない、己の人生で最高のボートを作り上げた。

　最強のボート乗りが、最高のボートに乗って、魔の大河に挑む。国中の人々がトウシの船出をお祝いし、トウシも勇ましい雄叫びでそれに応えた。

　三つの大河、四つの大陸を縫い進む冒険は、こうして始まった。

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