2024.02.07──まだ見ぬ友に贈り物を

 2年C組の益浦にプリントを届けよ。わたしに与えられたミッションはそれだけだったが、任務に就いてみるとかなりの高難度だということが判明した。

 C組の益浦が風邪で休んでるんだがあいつの友達居るか~? は~いという軽いノリでついつい引き受けてしまったが、別にわたしは益浦鹿子と友達ではないし、そもそも彼女の顔を知らなかった。

 部活にも委員会にも入っていないことから常日頃雑務をやらされるターゲットになっているため、面倒事は最後に必ず自分に回るという感覚が抜けず先行して何でもやってしまうのだ。

 しかし顔を知らなくとも、住所を知ればその人物の所在は特定できるのだ。SNSをやる時にまず最初にすべきことは位置情報のオフである。わたしは益浦の住む家の前に着いた。

 ……家か? ここ……?

 わたしの目の前にある空間は、建物も木すらも生えていない、ザ・更地だ。メモした住所を間違えたのだろうか? 一回道を引き返そうとしたところで、わたしはジ・更地の真ん中にマンホールのようなものがあることに気付いた。

 その横に小さい看板のようなものがあり、「玄関」と綺麗な字で書かれている。

 ……いやいや、まさかまさか。

 わたしは騙される覚悟をキメて、マンホールの蓋をコンコンとノックした。

「おさがり」

 その声が聞こえた瞬間、マンホールの蓋が開き、そこから出てきた腕に掴まれて、わたしは地底に引き摺り込まれた。



 次の日。益浦の風邪は良くなったようで、2年C組に通常出勤したそうだ。

 わたしは未だに彼女の顔を知らないし、あの日マンホールの下で何を見たのかも覚えていない……真っ暗で何一つ見えなかったのだ。

 しかし益浦の声は聴こえていたのでプリントを渡せたし、彼女と友達にもなれた。

 また今度家にお呼ばれしているので、次はプリントではなくゲームと漫画を携えていくとしよう。

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