2024.02.11──オセンベヤケタカナ
整備屋の親父に7ヘブンスという破格で譲ってもらった戦闘用ロボは、動かしてみればただの煎餅焼きロボットだった。怒り狂って整備屋に殴り込みに向かうと「長期休業」とだけ書かれた貼り紙がされてあった。さぞ長い休みになることだろう。
仕方なく購入した煎餅焼きロボに「アルファ」という名前を付け、こいつと共に次の職場に向かうことにした。焼いていない煎餅を掴み、鉄板に置き、焼き時間を確認して、ひっくり返す。それだけの精密な動きが可能なのだから、銃の扱いも教えたら覚えてくれるだろう。きっと。多分。
新しい職場はつい先月住民同士でいざこざのあった旧市街地のマンションで、現在は各住民武装して己の部屋に立てこもっている。俺を雇ったのはそのマンションの元オーナーで、今は住民立ちに追い立てられ近くの友人宅に避難している。
オーナーの依頼は、立て籠っている住民達を何処かへ追い払って欲しいというものだ──その際の住民の"状態"は問わない、とのこと。
仕事を引き受けたはよいものの、実際に現場のマンションを目にするとウンザリしてくる。ざっと見で100室以上あるじゃないか。この一部屋一部屋に最低一人住んでいるとしても、とても一人で相手できる数じゃないぞ。
いや、今は一人ではなかったな。お前ならどうするアルファ、と後ろを振り向き、俺は目を剥いた。
アルファの奴が近くのドラム缶を熱して、煎餅を焼いていやがる。その材料はどこから調達したんだ。香ばしい醤油の匂いがマンションに漂い始める。
すると意外なことが起きた。マンションの扉が一つ、また一つと開き、住民が外に出てきたのだ。
……そうか、事の始まりは一ヶ月前。住民達の食糧は、尽きる寸前だというわけか。何はともあれ好機である。住民が匂いに誘われて全員外に出たのを確認すると、俺はオーナーから預かっていた「マスターキー」のボタンを操作して、マンションの全部屋の鍵を掛けた。
前職で身に付けた特技が、新しい職場で思わぬ役に立つことがある。今回のもその一つだろう。
何はともあれ、アルファにはまだまだ煎餅を焼かせておいた方がよいだろう。俺は頼れる相棒の焼いた煎餅を笑いながら齧った。
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