2024.02.05──過ぎたる荷

 平金藩の領地に人喰い熊が出現してはや十日。藩は熟練の猟師達を集め山狩りを行う予定だったが、そこに幕府から待ったが掛かり、試作段階のオートマタギを急遽用いることになった。

 だが、山に放った五体のオートマタギは、一日もしない内にその全てと連絡が取れなくなった。その結果に落胆する幕府お抱えのからくり技師達を他所に、平金藩は改めて山狩りを開始した。

 だが、熟練の猟師二十人を起用したにも関わらず、一週間経っても熊を仕留めることはできなかった。それどころか逆に熊の方に襲われ、命を落とす猟師まで現れてしまった。

 襲撃から逃げ延びた最も腕の立つ猟師から話を聞くと、その猟師は確かに種子島で熊の頭を撃った、しかし熊は頭部、いや全身に鎧のようなものを身に付けていて、弾丸を全て弾き返したのだという。

 一緒に話を聞いていたからくり技師は顔を青くした。その鎧は、オートマタギの部品を使ったものに違いない。オートマタギを投入したせいで、熊は手に負えない脅威となってしまったのだ。

 新たに浮上した問題に藩士達が頭を抱えていると、一人の若い武士が手を上げた。瓶山甲之助という町人上がりの者だが、鎧を纏った熊なら簡単に倒す方法があると言う。

 甲之助の策は人足が必要だったが、平金藩はすぐに領内から必要人数をかき集め、明日策を実行に移した。

 まず数名の猟師が鎧熊を見つけ、山のあちこちに潜んでいる人足達に連絡を入れる。連絡を受けた者は「熊威し」という熊が嫌う音を発する鈴を一斉に鳴らし、鎧熊を所定の場所まで誘導する。

 そこは崖になっている場所で、崖の先には策を立てた甲之助が待ち構えている。鎧熊が近付くのを見た甲之助は、熊を挑発して自分に襲いかかるように仕向ける。

 オートマタギで武装した鎧熊の手が甲之助に振り下ろされる一瞬。甲之助は素早く身を翻して鎧熊の背後に回り、その身体に思いきり体当たりをした。その衝撃により、鎧熊は崖から落下する。

 崖の下にあるのは、深緑色をした大きな池だ。鎧熊が落ち、水面が大きく波立つ。

 普通の熊なら、この程度の池は難なく泳げるだろう。しかしオートマタギ数体分の部品を身に付けている鎧熊は、その重みにより池の底に沈んでいき……二度と浮き上がることはなかった。

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