2024.02.04──焦げた町
その町は何もかも焦げていた。家もタイルの道も、街路樹も全てが真っ黒に焦げ、太陽が由来ではない(そもそも今は曇っている)熱気が口と鼻から入り込み、喉の奥を熱くする。砂組恩は激しく咳をした。
恩は、近くの焦げた大木に寄りかかっている老人を見つけた。木は真っ黒でボロボロで、少しでも力を入れると崩れてしまいそうだったが、その老人には体重も力も感じさせず、暗い顔で項垂れている。
恩は老人に「何があったのですか」と尋ね、老人はボソボソと声を発した。ほとんどが要領を得ない雑音だったが、意味のある言葉を拾ったところ、以下のようになった。
この町はどの家にも特殊なヒーターが引かれており、それらは全て繋がって、町の中央にある制御局により温度調整がされていた。
老人はそこの職員で、昨日の夜が温度調整の担当だったが、メーターを上げたまま居眠りをしてしまい、気付いた時には上がりすぎた熱で町は真っ赤に燃え上がり、後には焦げた廃墟だけが残ってしまったのだ。
不幸中の幸いか、上がり続ける熱に違和感を覚えた住人達は、本格的な火事になる前に町から脱出することができ、死者は一人も出なかった。しかし、町を全焼させた罪により老人は住民達から追放され、この焦げた廃墟に取り残された。
「だけどなお嬢さん」老人はそこで一番明瞭な声を出した。「罪とは言っても、住民の誰もワシを責めなかった。ああ、責めなかったのだ。むしろこの町に取り残されるワシを哀れだと言ってくれた程だ……だからこそワシはこの町に残らなくてはならぬのだ」
夜になればここらは冷える、暖かくして行きなされよ自嘲気味に言う老人に見送られ、恩はその町を後にした。炭化した木をいくつか、焚き火用に拝借した。
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