2024.02.03──駅病

 20XX年。世界中で突如「駅病」が流行し出した。

 これに罹った人は皆、家の最寄りの駅に集まりだし、そこでずっと「ある電車」を待ち続けることになる。

 「ある電車」が何を差すかは未だに解明されていない。駅病に罹患した人がホームにやって来た電車に乗ったという事例はまだないからだ。

 微生物学の権威である団扇伴子博士は、特別研究所を東京駅構内に設け、そこにやって来た罹患者、そして感染していない通常の乗客から血液等のデータを採取し、三年一ヶ月の歳月を掛けてついに特効薬を作り上げた。

 この特効薬を接種した者は、駅に居続けると次第に不快感を覚え始め、一時間もするとその場から離れずにはいられなくなる。特効薬はすぐに空中散布され、やがて各地域の駅に密集していた駅病患者は「ある電車」を待つことを放棄し、家に帰り始めた。

 そして意外なことに、一度駅を離れると罹患者から「ある電車」に乗りたいという欲求が永遠に失われるということが判明した。これにより世界各地で特効薬、または力付くによる駅病患者の移動が進められ、駅病の脅威は瞬く間に終息していった。

 また、団扇博士の作った特効薬は思わぬ副産物をもたらした。東京の新宿駅や大阪の梅田駅周辺でこの薬を散布したところ、駅構内で道に迷う人達が大幅に減少したのだ。

 この結果により、団扇博士は駅病とは人類が汽車を発明し、「駅」を建てた頃から既に存在していた常在菌の一種なのかもしれない、という仮説を立てている。

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