2024.01.27──ヘッドレスドライブ

 どんなお客様でも、お金をいただく限り、どんな場所でも連れていく。

 ジェットタクシーの運転手にとってそれが何よりも大切な理念なのは分かるが、義体技術が発展した昨今は身体の見た目をあまりにも自由に選択できるため、本当に色々な客を乗せる羽目になる。

 少なくとも、乗車する客の身長、体重に上限を設けているウチの会社は業界の中ではマシな方だ。マシだからこそ社員は多く、商売敵も増えるため日々血眼になって乗客を探さなくてはならないのだが。

 本日もお客が一人乗り込んだ。若い女性のようだが、顔は猫だ。最近流行っているアニマルヘッドシリーズだろうが、市販のものに個人的な改造を施しているようにも見える。

「……中央商店街に」

 女性はそれだけ告げると、後は黙ってシートにもたれ掛かった。最近の若者にしては随分と寡黙に感じたが、自分もそこまでお喋りな人間でもないためこういう客の方が気が楽だ。

 ジェットタクシーを走らせる。時刻は19時で、道路は家に帰る車で溢れているが、その隙間を上手く縫って目的地に素早くお客を届けるのがタクシー運転手の腕の見せ所だ。

 しかし十字路に差し掛かった時だった。真横から信号無視のエアバイクが突っ込んできたのだ。俺は慌ててハンドルを回し、バイクを間一髪で躱した。社内が大きく揺さぶられる。

「あぶねぇ! ……ったく最近の奴は! お客さん大丈夫で──」

 俺はバックミラーで女性の様子を確認しようとして、絶句した。

 女性の、猫の頭がポロリと落ちていた。

 そして猫の頭があった場所には──人間の女性の頭が出ていた。

「……は、あんた、」

「っ前! 来てる!」

 女性が叫んだため慌てて前を確認すると、さっき避けたはずの信号無視バイクが、こちらに向かって突っ込んできた。

 俺は再びハンドルを回してバイクを躱す。サイドミラーを見ると、バイク野郎は方向転換して三度こちらに向かって来ている。

 女性が叫びながら俺の方をバシバシ叩く。

「タクシーを走らせて! 急いで!」

「ち、中央商店街へか!?」

「もうそんなとこじゃない! とにかくここから離れてっ!」

 何が何だか分からないが、俺は無我夢中でタクシーを方向転換させ、アクセルを思い切り踏みしめた。ジェットタクシーはエアバイクよりもかなりの速度が出る。数十秒でバイク野郎を振り切り、奴は後方の景色に消えていった。

「……お客さん、生身だったのか」

「…………」

 女性のその沈黙はおそらく肯定の意味だろう。俺はため息を吐きつつ、タクシーをハイウェイへ向かわせた。

 もし明日無事に出社できるのなら、上司に進言しなくてはならない。

 乗客の禁止事項に、頭を二つ持って乗ることも加えろと。

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