2024.01.25──空と海の間

 水守知夢は一人乗りの船を漕いで、空と海しか存在しない世界を進んでいく。

 時刻は夕刻。空の青、陽の橙、雲の灰色が作り出す美しいグラデーションが、鏡のような水面に反射している。知夢は、自分が油絵と油絵の間に挟まれているような心地になる。

 知夢が家財道具の一切を売り払い、この一人乗りの船を買ったのはちょうど一ヶ月前。ここまで自分のペースで、オールをゆっくりと漕ぎながら進んできた。旅の進展は、自分の腕と自然の気まぐれによって変わる。そんな生活をしてみたかったのだ。

 陽が沈めば、いずれ空は黒く染まり、その黒いキャンバスを白く小さな星々が埋め尽くすだろう。そのしてその光景も水面は反射し、知夢は新たな絵画に挟まれるのだ。

 知夢はオールを動かすのを止め、船の上にゴロンと寝転がった。夜の海を進んでいくのも悪くないが、今日は星空に抱かれて眠りたい気分だ。このまま夜が遊びに来るのを、家のリビングでゆっくり待つとしよう。

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