2024.01.24──仇討金欠無常伝

 仇討ちというものは、金が掛かる。

 まず、仇を追って全国を旅して回る故、路銀が掛かることは勿論、どこの家にも勤めていないため身に銭が入ってくることもない。仇討ちの日程が遅れるほど貯金は減っていく一方だ。

 実際、この旅の途中で何度も文無しの憂き目にあった。こうなると武士の誇りを捨て去って、何かしらの金稼ぎをしなくてはならない。個人で出来ることでは金物の修理や草履売り、その土地に遊郭等があれば用心棒をやったりもする。

 用心棒は特にいい。実入りは良いし、客の入る場所だとこちらから出向かなくとも情報が耳に入る。

 だが、生活の為とはいえ、個人として恨みのない者を斬るのは中々に忍びない。大体は遊女にてを出したり支払いを踏み倒したりしている録でもない輩が相手だが、ほとんどの者は斬られるときに恨み言を残して死んでいく。そういう仕事があった日の翌日は、流石に目覚めが悪いものだ。

 ある程度の路銀が貯まると、早々にその土地を離れてまた仇討ちの旅を始める。もう十年近くこのような生活をしているが、何時になれば仇を討てるだろうか。

 いいや、必ずや討ってみせる。十年前、父を斬ったあの悪党を。遊び癖がひどく借金もあったが、この私には掛け替えのない、優しい父を斬った、あの男を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る