2024.01.23──秘密弁当箱
喧嘩中の女房は弁当箱に飯しか詰めないという話を聞いたことがあるが、まさか箱根の寄せ木細工の秘密箱に弁当を詰めて渡してくるとは思わなかった。
もう20分も経つがまったく箱が開く気がしない。空腹がピークに達しつつあるが、昼休みは残り40分ある。この大きさの弁当なら10分もあれば食べ切れるから、あと20分以上はパズルに挑戦する時間がある。
とりあえず動かせる場所を探そう。左側面か、右側面か。底板を触ってみると、一部分が数ミリだけスライドした。よし、出発点を見つけたぞ。
動かし始めが分かると秘密箱というものは順調に解けていくものだ。カシャリカシャリと淀み無く板がスライドしていき、完全に開くまではあと少しだ。
秘密箱といえば、女房にプロポーズをした時を思い出す。あの日、箱根の芦ノ湖にあいつと出掛けた俺は、一通り楽しい時間を過ごすと、女房に一個の秘密箱を渡した。「結婚してください」というお決まりの文句を添えて。
秘密箱の中には、指輪が入っていた。普通の箱に入れて渡すよりも浪漫があると思ってやった鼓動だったが、これがまあ大失敗だった。パズルが苦手なあいつは箱を全然開けることができず、結局俺が自分で箱を開け、取り出した指輪を薬指にはめてやった。今思い返してみるとよくもまあOKを貰ったもんだ。
ここで俺は気づいた。この弁当箱、もしかしてあの時の秘密箱じゃないか。だからここまで順調に解くことが出来たのでは。
猛烈に嫌な予感がした。箱の中に入っているもの、それは弁当ではなく……。
俺は空腹のことを忘れて、無我夢中で秘密箱を弄くり回った。勘弁してくれ。俺が悪かった。謝るから許してくれ。今度指輪を渡すときはちゃんとした普通の箱に渡すから。
そして箱は開かれた。中に入っていたのは、キラキラと輝く…………白い米だった。
精神的に追い詰められてた俺は、その事実を確認するとホッと胸を撫で下ろした。
しかし……どうもまだ不機嫌は長引きそうだぞ。
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