2024.01.22──白壺の儀
二百畳の和室にずらり、本日の分の壺が並べられた。何の変哲もない白い壺だが、こうして何十個も均等に置かれていると、新進気鋭の作家によるモダンアートに見えなくもない。
壺を並べ終えた僕は、他の弟子達と共に隣の部屋へ移動した。ここから先は師匠の仕事だ。神経を注ぐ作業になるため、その間は師匠以外の人間は別の部屋に行くことが決められている。
師匠に認められた弟子は、一番近くの部屋でその仕事を見ることが許されている。七番弟子である僕は一月前にやっとその権利を得たばかりだ。いよいよ師匠の仕事を生で経験することができる。
師匠が入室してきた。今年で七十を超えるはずだが、一見四十代だと言われても信じてしまうくらい、そのお姿は若々しく力が溢れている。
師匠が一番端の壺をコンコンと叩いた。仕事の始まりである。横一列に並べられた壺を師匠はコンコン、コンコンと順番に叩いていく。その様子は精密機械を扱う腕利きのエンジニアのようであり、同時に、まるで初めて楽器を鳴らして遊んでいる幼い子供のようにも見える。
二十八個目の壺だった。それをコン、と叩いたところで師匠の動きがピタリと止まった。師匠は前屈みなり、壺を注視する。
「刀」
師匠がそう言うと、僕と同じ部屋で待機していた一番弟子である若い女性がサッと立ち上がり、細長い物を持って師匠の近くに駆け寄った。
師匠は一番弟子の持ってきた物を受け取ると、すらり、と慣れた動作で鞘から刀身を抜いた。
そして次の瞬間、その刀を二十八個目の壺に振り下ろした。
壺から子供または老婆のような悲鳴が上がッたかと思うと、突然外で雷が鳴り、雨が轟々と振りだした。
「以上」
そう言って師匠は刀を鞘に納め、一番弟子に手渡した。それを確認した僕達は部屋に入っていき、壺の片付けを始めた。
こうしてまた新しい一週間が始まっていく。多くの人にとって何事もなく、一日を生き抜く覚悟を伴って。
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