2024.01.20──伸びるタイヤ
多治川詠美が愛車で国道を走っていたとき、妙な現象が起きた。
運転席の速度計では確かに「40km/h」と表示がされているのだが、それにしては窓の外の景色が随分ゆっくり流れていくように見えるのだ。
不審に思った多治川は一度車を停車しようかと窓の外に顔を出し、あっと声を上げた。
車のタイヤが四輪とも、まるでガムのように長~く伸びていたのだ。タイヤはここからは視認できない程後方で道路にくっついてしまっているようで、その場所からここまで、ゴムがずっと伸び続けている。
それに気づいた時、多治川はゾッとした。車の速度が下がっているということは、車体が後方へ引っ張られているということであり、タイヤのゴムが伸びる限界点が近づいているということを意味する。
車を停車させるなど、とんでもない。そんなことをすれば、伸びきったゴムが一瞬で元に戻り、車は遥か後方へものすごい勢いで吹っ飛ばされてしまう。
多治川はアクセルを全力で踏み入れた。速度は60、80と上がっていき、車も先程よりも早く前に進みだしたが、数百メートルも進まぬ内に減速を始めた。やはりタイヤの限界が近い。
そして車は、いよいよ止まりそうになる。そうなれば一貫の終わりだ。伸びきったタイヤは恐ろしい弾力をもって、自分と愛車を後方へ吹っ飛ばしてしまうだろう。
もうほとんど意味の無い行動だと分かっていても、多治川は全力でアクセルを踏み続けた。エンジンがグオオオオオオと怪獣の唸り声のような音を上げる。車体がガタガタと震え出す。
そしてついにその時は訪れた。結論から言うと多治川は己の運命に打ち勝った。
伸びきったタイヤは車体を後方に吹っ飛ばすのではなく、接触していた地球を車の前方に吹っ飛ばしたのだった。
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