2024.01.16──ポチャリポチャリ

 机に置かれたガラスコップの水にポチャリと水滴が落ちた。

 ソファーでくつろいでいた面野岩玲美は、その現象に対して最初はこれといった関心を示さなかった。

 だが二回、三回ポチャリポチャリと水滴音が響き渡ると、玲美はある違和感に気付いた。

 おかしい。

 この水滴は、どこから落ちてきているの?

 玲美は上を見上げる。そこに見えるのは、影が掛かった白い無機質の天井だけだ。

 だったら、雨漏り? いや、それもありえない。

 玲美が今いる部屋は、10階建てマンションの3階なのだ。それも新築の。上の階の人が何かを溢したとしても、水が下の階に漏れてくるとは考えられない。

 じゃあ、この水滴は? 玲美はソファーから上体を起こし、机の上のコップを注視した。

 ポチャリ。4回目が鳴った。

 玲美は、硬直した。

 玲美はずっとコップを観察していた。観察していたからこそ、今その目にした現象を信じることができなかった。

 ポチャリ。

 5回目が鳴った。

 玲美は声を出してソファーから立ち上がった。

 ポチャリポチャリポチャリポチャリポチャリ。

 玲美の動きを待っていたかのように、水滴音が連続で部屋に響き渡る。玲美は悲鳴を上げ、半狂乱になりながら部屋を飛び出していった。

 水滴音の正体は、上から落ちてくる水ではなかった。

 それは、水面から現れた、一本の指によって起こされていた。

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