2024.01.15──鯖缶食べたい

 鯖の缶詰が食べたいのなら町に出ればいい、そう思い立った私は手提げの小さい袋に財布と鍵、買い物袋などを放り込んで外に繰り出した。

 近くのスーパーで済ませてもいいが、どうせなら少しでもお洒落な鯖缶が食べたい。となるとバスで10分ほど進んだ先にある輸入食品専門店が妥当となるが、家の前のバス停のダイアを確認してみると、次のバスが来るまで20分も掛かることが分かった。

 たかが鯖缶一つ確保するのに30分を費やすのは、何かしらのコスパが悪い気がする。まあ今日はスーパーでもいいかと踵を返すと、あるものが私の視界に映り込んだ。

 道端に長机を置き、その上に缶詰を並べて売っている人が居たのだ。同じような売り方で靴やら服やらを売っているのは見たことがあったが、今日に限って缶詰とはなんという僥倖。

 私は鼻唄混じりに机に並べられた缶詰に目をやった。

 しかし、私の期待はすぐに裏切られた。

 売られていたのは鯖やツナなどの食べ物の缶ではなく、靴やグローブを磨くのに使用するワックスの缶詰だったのだ。

 なんだか悔しかったので、【SURVIVAL】という商品名のワックスを一個購入し、私は家に帰るのであった。

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