2024.01.11──カヌー

 あのハンサムガイが隕石に突っ込んで人類を救ってからもう一年が経った。

 訓練生の同期だったあいつと俺は、故郷が近かったこともありすぐ友人関係になった。

 あいつは当時からよく「俺は世界を動かすようなでっかいことがしたいんだ」と宣っていたが、まさかそれを二十数年後に実現することになるとは、あいつ自身も思っていなかっただろう。

 なあ、どっから見ているかは知らんが、こっちは連日連夜お前さんの特番が流されているよ。ラジオに、テレビに、ネット。お前の名前を聴かない日は無い。

 お前が空に飛び立った翌日には、読んだこともない雑誌の出版社の記者が俺に取材に来たよ。俺は固くお断りしたね。話したところで、奴らの満足するようなエピソードなんか持ち合わせちゃいないからだ。

 お前との一番の思いでは、訓練をサボってカヌーで海を渡ろうとしたことだ。しかも手漕ぎのな。お前がオールを激しく動かしすぎてカヌーは派手に転覆したよな。あれ、割りと命の危機だったと思うが、俺とお前は大いに笑ったよな。

 お前さん、一年前もあの日みたいにサボりゃよかったのによ。

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