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だいぶ、嗚咽が収まった頃。

友達が私を見つけ駆け寄って、私が「美樹」と名前を呼ぶ前に前に私を抱きしめた。

「ほんと心配した。とりあえず、真緒が無事でよかった。」


それから、友達と一緒に私の家へと向かった。

電車内ではホームページ、SNS、Wikipediaなど、とにかく推しの痕跡を探しまくった。

私はまだ4人だった頃を求めている。


その様子を友達はただ見ている。

公式ショップを開き、まだそこに居場所がある彼のグッズたちを見て安堵の息を漏らした。

まだ買っていなかった分を購入しようとした時、友達の手が私の手に重なった。


私はその手の主を見た。今日、はじめて友達と目が合った。

美樹は私の目を見て軽く首を横に振った。

今まで推ししか見えていなかったことに気がついた。


その後すぐ、公式の推しのページが消えた。

全てが消えた。ブックマークから開いても削除されたページだと表示される。


何事もなかったかのように。まるで最初から3人だったかのように。


無慈悲にその姿は完成されすぎていた。


こんな、短時間でこうなるんだね。

今まで積み上げてきたものが崩れるのはあっという間だった。


事実を改めて突きつけられ私は見つけ始めた理性をまた見失う。

嗚咽が出るほど号泣した。私の手を友達が優しく包み込む。


男子大学生6人組にジロジロと見られていたけれど、そんなことはどうでもよかった。


日が変わる頃、帰路に着き友達と別れた。

ちゃんと、「ありがとう」と言えた。


推しにお金を費やしたいからと滅多に飲まない酒を飲み、彼らの曲を聴き続けた。酒で頭がクラクラする。


酒を煽ったとしても、歌を聴いたとしても、推しがいない。

その事実は何も変わらない。


眠れる訳もなくSNSを漁っては、心無い言葉に傷き、同じ気持ちの人と傷を舐め合う。そしてまた、根も葉もない憶測に傷つき、 傷を舐め合う。そのループ。


泣き疲れていつの間に眠っていた。

起きたらいつもは綺麗な二重がパンパンに腫れた一重になっていた。


それでも長年の癖は怖いもので手はいつもの習慣通りにSNSを開く。

開いたはいいものの何を見ればいいのか分からず、また涙が流れる。


ベッドの上で泣き続けては、いつの間にか眠る。

そんな一日。

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