推しは推せる時に推せ

瑞稀つむぎ

1

それは聖なる日の前夜。

12月24日。


推しが突然いなくなった。


私の推しは4人組の男性アイドルグループの最年少。


クリスマスに一緒に過ごす相手がいない私は彼氏とクリスマス旅行に行くとかいう同僚に頼まれてシフトを交換した。

そんなこんなでシフトに入れる人も少なく、シフトの時間が終わったのは23時30分頃だった。


帰り際に携帯を見たら同担の友達から通知が入っていた。 (同担…推しが同じ人)

「大丈夫?」「今、何してる?」「会えそう?」「家、行っていい?」

といった感じで私のことを心配する文章で溢れていた。

何事かと思って、通知をスクロールしていったら最後に見えたのは。


ファンクラブからの通知。

「推しが事務所を退所した」と。

そう、ディスプレイに表示されていた。


しかも、自主的な退所ではなく、契約解除。

目標に向かってのものでも無く、退所の理由は明かされてない。


最初見た時は、前向きな退所だと思っていた。

将来やりたいことがあるとか、違う環境で頑張りたいとか、これからも芸能界に残っていくと勝手に思っていた。


なのに、違かった。


何かがあった。

あの人が何かとんでもないことをしたのかもしれない。

それは、わかった。


今まで、芸能人で色々やらかしてきて結果として契約解除といのは見たことはあった。

なんなら、二股をしても何の咎めが無い人も見てきた。


これは、相当なことがあった。

パニックになった。

手が震え始めた。

まだ少し残っている理性が、この場で泣き出すはまずいと涙を抑えてくれた。


だけど、言葉は抑えられなかったらしい。

どういうこと?何があったの?と言い続ける私に、一緒に帰ろうとしていた同僚を困らせてしまった。


連絡をくれた友達から電話がかかってきた。私はワンコールで出た。

近くにいるから合流しようと言ってくれたから、同僚と別れた。

その時の同僚のひどくゾッとしたような顔が印象的だった。


友達は駅の構内で待っていてくれるらしい。


時刻は0時まで残り15分程度。

頭は真っ白で全く働いてない。

もう、なんでもいいから、4人の痕跡……いや、違う。


推しがまだいるという痕跡を見つけたくて、この前ライブがあった会場を目指して走りだした。それが隣の県にあるとかどうでもよかった。


私がなかなか行かないので心配した友達から電話がかかってきた。

今度は5コール目ぐらいで出た。居場所を聞かれたので伝えた。

友達は私がいるところまで来てくれるらしい。


「絶対にその場にいて。何もしないで。私からのメールを見る以外はスマホ見ないで。」と念を押された。


それまで訳が分からず、ただ思いついたことをやろうと必死だった。

友達の声を聞いた途端、張り詰めていた糸が切れた。


私の理性は「もう、いいよ」と言った。

大都会の真ん中でただ1人泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る