第3話 メタモルフォーゼ

「お前はこれから余の眷族となるのだ・・・・」

彼女はその声を聞いたあと首筋に痛みを感じ、意識が遠のいていった。

 次の瞬間、彼女は目覚めた。体は病院用パジャマのようなものを着せられていて、頭痛、吐き気、目のかすみ、倦怠感などは全くなかった。ハッとして、性器に手を伸ばして触ってみたが特に違和感はなかった。まわりを見回してみると、どうやら自分はカプセルの中にいて外の様子を知ることはできなかった。

 彼女は今まで自分に起きたことを思い出していた。

 FBIの特別捜査官としてワシントンDCからラスベガスの郊外で起きた集団失踪事件を捜査するためラスベガスに派遣されたこと。

 SWATを連れ、パートナーと現場を捜査していたこと。

 捜査中に正体不明の集団に襲われ捕まったこと。

 正体不明者達に連れられて不思議なゲートを通ったこと。

 ゲートの先は建物の中で、普通の人間が働いていたこと。

 軽いカウセリングが行われたこと。

 カウンセラーの話ではここは自分がいた地球とは違う平行宇宙にある地球であると告げられた。

 また、ヴァンパイアになる儀式で、この国の支配者とおぼしき人物に会ったこと。

などついさっきの事のようであるが、自分の身に起こった事に対して整理と理解が追いついていかない状況であった。

 しばらくするとカプセルの蓋が開いた。彼女は起き上がりあたりを見回すとそこには数人の作業員が彼女の眠っていたカプセルに設置されている機器の状態を確認していた。また彼女の入っていたカプセルはバスケの競技場ぐらいのスペースに設置されていて、他にも同様のカプセルが並んで設置されていた。

 「名前はスカーレット・茜・緋紅(フェイホン)・マーシャルで間違いないね」名前を呼ばれた彼女は小声で

「ハイ」と返事をした。

「これで人間からヴァンパイアになる変態期間は終了した。次はこの書類を持って隣の部屋に行き、係りの者の指示に従え」作業員の中で一番偉そうな人が言った。

「おっと、その前にこれを吸いなさい」差し出されたのは何かの液体が入ったパックだった。

「これなんですか?」茜が中身を聞いた。

「血液だよ。今後は食事の代わりに血液を吸うことになる」茜は、ああやっぱり、ヴァンパイアだからそうくるよねー。

「吸い方は上の歯の二本の犬歯を伸ばしてパックに穴をあけて犬歯の先端から血を吸えばいい」マジ、ヴァンパイアじゃん。

「あのー、私って日光浴びると死んじゃうんですか?」茜は恐る恐るヴァンパイアあるあるを聞いてみた。

「そんなことあるわけないだろう!」技師は怒った口調で答えた。

「心臓に杭を打たれると死んじゃうとか?」ヴァンパイアあるあるその二を聞いてみた。

「杭なんて刺さらん。 ヴァンパイアの皮膚は急激な衝撃を受けると硬化するようになってる。そもそもヴァンパイアに人間の心臓に該当する器官は無い」

「じゃヴァンパイアって心が無いんですか?」茜は子供のような質問をした。

「そんな哲学的なことは学者にでも聞いてくれ」技師は鬱陶しいっと言いたげに手を振った。

「ニンニクが苦手だったりしますか?」ヴァンパイアあるあるその三を聞いてみた。

「そんなの個人の嗜好によるだろ!」

「ヴァンパイアと人間のハーフにヴァンパイアは殺されたりしますか?」ヴァンパイアあるあるその四を聞いてみた。

「ヴァンパイアと人間の間に子供は作れない! どうでもいいから早く隣の部屋に行ってくれ」技師はもう何人ものヴァンパイア化に立ち会ったが、こんな質問をされたのは初めてだった。

「この娘が特別なんだ。今後こんな馬鹿げた質問する奴は現れない・・・・」技師は独り言を言って自分に言い聞かせた。

 茜は質問の回答に不服ながらもカプセルから降り、書類を受け取って隣の部屋に歩いて行った。歩きながら手で胸を触り、

「胸の大きさには変化なしかぁ」と落胆した。

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