第4話


「なんだいなんだい。今日はすっかり女子の恰好で十分淑やかじゃないか」


 そう言って、両手を広げて黒色の浴衣を見せびらかす。でもねぇ、と女子はくすくすと笑う。


「なんだよ。つまらないなぁ。――千代子はどう思うんだい?」


 急に話を振られて面を食らう。周囲の視線が集まり、堪らずに千代子は俯いて、ちらりと紗枝の姿を見る。


「――紗枝は……そうですね。振る舞いこそ少年のようですが、スレンダーで美しいと思いますよ」


 ぱちぱち、と紗枝が瞬きをし、にんまりと笑う。そうして先ほどまでからかってきていた女子たちにどうだと言わんばかりに、私の肩を抱いて言った。


「ほれみろ。見ているやつにはちゃんとわかるんだよ」


 そう言って強引に私の身体を抱いたまま、先を歩き始める。悪目立ちをしたくない千代子はあわあわと困った様子で、時折転びそうになりながら、よたよたと紗枝へついていく。そんな姿もわはは、と紗枝が笑うものだから、また周囲の視線を集めてしまう。

 ゆっくりと歩きながら、それぞれのグループに分かれて屋台の物色を始める。前を歩く自分たちのグループと後ろを歩く雛子たちのグループ。それぞれが二人か三人の細かいグループに分かれて、時折合流しながらそれぞれで楽しみを見つけていた。


「千代子さ。雛子さんに何か言われたのかい?」


 ほどなくして、不意に声色を変えて紗枝が言った。先ほどまでのおちゃらけた雰囲気とはまるで違って、少し千代子は警戒してしまう。


「――いいえ、普通に世間話をしていましたよ」

「ほんとかねぇ。――離れるとき、随分と雛子さんが千代子を見ているようだったから、何かあったんじゃないかって思ったんだけどね」


 こう見えて、紗枝という少女はよく人を観察しているようだった。千代子はというと、雛子に群がる少女たちに押しのけられていたのでその姿を見てはいなかった。


「そうですか。――きっと私がこういう性格ですから、気を使ってお話してくれたのでしょう。紗枝と良い、人気者というのは気が利く方ばかりですね」

「――そんなんじゃないやい。私は私の思うままに行動しているだけだよ。……雛子さんは――そうとは限らないだろうけどね」


 そう言って、ちらりと後ろで塊になって歩いている雛子のグループを流し目で見つめる。視線の先でいつものように微笑んで話をする雛子の姿があった。


「――名残惜しいというとき、人はああいう顔をするんだな」


 ぽつりと紗枝が呟き、また前を向いて小さくため息を零した。そうすると前を歩く自分のグループの女子が大きく手を振って紗枝を呼んだ。


「紗枝、風船掬いをやりましょうよ」

 おう、と男の子のような返事で紗枝が小さく手を上げた。そうして千代子の頭にぽんと手を載せて、


「まぁ、仲良くしなさいな。――困ったことがあったら、この紗枝お姉さんを頼りなさい」


 生まれた月で言うならば、千代子のほうが少しお姉さんなのだけれど、千代子は素直にその言葉に頷いて、微笑みを返した。紗枝がたったと風船掬いの屋台へと走っていく。

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