田の神様
次は八百万の神様の一人、田の神様の所だ。
田の神様は石の像が多い。全国にたくさんいる田の神様。石の像の近くにいるだろうが、どこにいるかはその時の神様の気分次第で変わるのでぼんぼりに従い歩いていく。
途中で次元の歪みを通り、道なき道を歩いていく。
「どこにいるのかな?こんな事ならコンに乗せてもらった方が良かったかな?」
なかなか田の神様を見つけられず、不安になってきた頃、ぼんぼりの色が黄色に変わった。目的の場所に着いた証だった。
そこは見渡す限り一面に田んぼの広がる開けた場所の真ん中にある橋の上だった。人間界とリンクして風景も同じような所も多い。
早期米が植えられ伸び揃った苗が緑の絨毯のように綺麗に広がっているだけで田の神様の姿は見えない。
「あれ?いないなぁ…田の神様ぁ~」
田んぼに向かって大きな声で呼んでみる。
「田の神様ー!郵便でーす!どこにいますか?田の神様ぁ~?」
「あぁもう!そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるわい!」
雅の下から声が聞こえてきた。どうやら橋の下にいたようだ。橋を降りて田の神様の元へ行く。
見た目は、ガタイの良いおじ様がのんびり釣りをしていた。
「小娘、何の用だ?」
「巫女郵便です。どうぞ」
鞄から手紙を取り出し両手で差し出す。
「郵便?儂に?」
郵便が来るのが珍しかったのか半信半疑で手紙を受け取る。
「でんでん神社の神様からか!何々…?」
手紙を書くのは何も人間ばかりではない。神様も書いて出したりするのだ。そしてその手紙を届けるのも巫女郵便のお仕事だ。
田の神様はその場で手紙を開き読んでいく。目を通すと懐かしそうに笑ってみせた。
「近くにいるのに、いつでも会えると思って全く会いに行かん儂に、たまには遊びに来いとの誘いだった。…長い寿命を持つ儂らはいつでも会えると思ってなかなか会うことはないからな」
田んぼを越えて山の先にあるでんでん神社の方角を見ながらそう呟いた。
「田の神様も会いたくなりましたか?」
下から覗き込むように尋ねると頭をワシャワシャと撫でられた。
「わっ!止めてください!髪がぐしゃぐしゃになります」
「わははっ。…昔はよく遊びに行ってたが、ここ数十年は会ってなかったな。でんでん様は、そんな事はないが…田の神の奴らは急に田が埋め立てられたりする事が最近増えて消えてしまう者もいてな。寂しく思っていたところだ。……たまには会いに行ってやるかな?」
「はい!ぜひ、そうしてください。でんでん様、きっととても喜びます」
優しいでんでん神社の神様の顔を思い浮かべにっこり笑う。
「儂らはともかく……人間は寿命に限りあるからの、お主も友達と仲良うな」
田の神様のその言葉に桐矢の顔が思い浮かんだ。
神様は何でもお見通しなのか、きつく言ってしまった事を反省しながら帰路についた。
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