初仕事
まず向かったのは、雅も祖母に付いて行き何度も顔を合わせた事のある気心知れた神様、ニニギ様のお社である。
大きな御神木が目印で広大な土地と立派なお社が待ち受けている。
入り口から入ろうとすると2匹の狛犬が立ち塞がる。
「待て小娘。おまえ一人何用だ?」
「巫女郵便です。お目通り願います」
巫女郵便の証でもある、ぼんぼりを掲げて見せると渋々ながらも道を開けてくれた。
何度も来てるが一人で来たのは初めてなのでドキドキする。
緩い階段を登り、ニニギ様がいらっしゃるお社へ向かう。
「おや、雅かい?こんにちは」
「ニニギ様、こんにちは。巫女郵便です」
お社にいたニニギ様の方が先に雅に気付いて挨拶してくれた。
「今日から巫女郵便の仕事を引き継ぎました。不束者ですが、よろしくお願い致します」
「巫女郵便、今日からだったんだね。私の所が一番だなんて光栄だな」
ニコニコしてニニギ様はいつも穏やかで優しい。鞄から手紙を取り出し両手で渡す。
「どうぞ」
「はい。確かに受け取りました。ありがとう。これから、頑張ってね」
「はい!ありがとうございます!」
励ましの言葉をもらって嬉しくなり笑顔でお礼を伝える。
大きく手を振りニニギ様に別れを告げお社を出る。狛犬達は用が済んだならすぐ立ち去れと言うような目で見てくる。
その狛犬達にもこれから何度も会うのだからと敬意を示し、お社を出てから振り返り深々とお辞儀をした。
拍子抜けした狛犬達は戸惑いながらもペコリとお辞儀を返してくれた。
あぁして素直だとかわいいなと思いながら次の配達場所を確認する。
次の神様は川の神様の所である。神様は皆お社があるわけではない。川の神様は全国に何人もいる。川の近くに石や銅像で祀られてる事が多い。どこにいるかはその時の神様の気分次第で変わるのでぼんぼりに従い歩いていく。
神之川の川の神様宛である。歪んだ次元を潜り抜けると田んぼと赤い橋が見えた。川に架かる赤い橋の所に行くと、目的の姿を見つけた。
「神様〜。郵便です!」
神之川を橋の上から眺めていたのは、線の細い綺麗な男性の神様だった。
「郵便…?」
雅から手紙を受け取ると川の神様は、その場で開けてすぐに読んだ。読む顔は穏やかだったのにだんだんと額に皺が寄り最後は悲しそうな顔をしていた。
「…嫌な事が書いてありましたか?大丈夫…ですか?」
神様を心配するなんて烏滸がましいかなと思いながらもつい口に出して言っていた。
気遣ってくれた雅に少し驚きながらも川の神様は苦笑した。
「大丈夫だよ。ただ…耳の痛い苦言が書いてあってな…」
なんて言ったらいいのか思いつかず黙っていると川の神様が頭を撫でてくれた。
「心配してくれてありがとう。でも苦言が来るのは私を見てくれている人がいるという事。私は見てくれてありがとうと言いたいよ」
悪口を言われてお礼を言うなんて、さすが心の広い神様だなと感心する。
「ただ、苦言しか言えないのは可哀想だと思うよ。人は言葉を持っている。言葉で想いを伝え合う。だから、私はどうせなら嬉しくなる言葉を使っていきたいと思うよ」
やっぱり神様は偉大だなと眩しく見える。
「私も…。同じ言葉なら人が嬉しくなる言葉を使っていきたいと思います」
その言葉に川の神様はまた優しく頭を撫でてくれた。
川の神様に頭を下げ別れを告げ、最後の手紙の届け先を確認する。
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