でんでん神社の巫女郵便

kanata

巫女郵便

 中学生になったばかりの雅(みやび)。


 今日から家で新しい仕事が任される事になっており急いで学校から帰ろうとしていたところだった。


「雅!もう帰るのか?」


 そう声を掛けてきたのは幼馴染の同級生、桐矢(きりや)だった。


「ごめん!今日はちょっと忙しくて…」


「せっかく部活見学に行こうと思ってたのに。最近、付き合い悪いぞ!何してんだよ!」


 いつも仲のいい桐矢だったが最近思春期のせいか機嫌が悪い時もある。


 それは雅にとってもそうで、桐矢に言われた事にカチンとくる。


「桐矢には関係ないでしょ!私は部活には入らないから1人で行って!」


 そう言って桐矢を置いて学校を後にした。




 雅の家は神社である。幼い頃から境内の掃除やお守りの販売などいろいろと手伝っている。神社の手伝いは好きで面倒と思った事は一度もない。


 その神社の仕事の中で一番やってみたいと思っていたのが手紙を届ける仕事だった。


 ただの手紙ではない。どこからともなく全国から集まってくる神様への手紙を届ける仕事である。


 神社に行って御参りしたり、絵馬にお願い事を書けばもちろん声が届くのだが、手紙となると直接届けないと神様の元に届かないのだ。


 その手紙を直接届ける事ができるのが、ここ、でんでん神社の巫女である。代々受け継がれてきた巫女郵便。


 先代は雅の祖母であった。その祖母から雅は巫女郵便ができるよう小さい頃から指導してもらってきた。


 誰かの想いを届けるステキな仕事にずっと憧れていた。中学生になって、やっとその日がやってきたのだ。


 学校のカバンを放り出し、巫女服に着替えて、肩掛け鞄を準備し、郵便の時に使う道具の確認をしてから神社に向かう。


「おじいちゃん、おばあちゃん、ただいま!」


 神社の御参り売り場にいた祖父母に声を掛けて神社に御参りする。


「でんでん様!いつも見守ってくださり、ありがとうございます。今日から始める巫女郵便が上手くいくように見守ってください」


 手を合わせ頭を下げて、また祖母の元に行くと祖母は御守り売り場から出てきて、今日届ける手紙を渡してくれた。


「今日は仕事初めだからね。3箇所頼むよ。ぼんぼりは持ったかい?」


 行き先を照らしてくれるぼんぼりの確認を祖母がしてくれる。


「大丈夫!持ってるよ!」


 祖母と顔を合わせ頷き、手紙を大事に肩掛け鞄にしまい、一緒に近くにある千年楠の祠に歩いていく。


 祠の回りには千年楠と言われるだけあってとても大きな楠の木が何本もあり祠を守っているようである。


 その祠の前にある鳥居を潜ると急に雰囲気が変わる。一般人には見えない結界の中に入ったのだ。景色は変わらないが祠にある扉の先はもう神様の住む領域である。


「行っておいで。しっかりお届けするんだよ!」


「うん!行ってきます!」


 雅は祖母に元気に挨拶して祠の扉に飛び込んだ。


 先程いた空気とはまた一変して澄んだ風が吹き込み景色が様変わりする。


 大きなお社の中だったが、すぐ外へ出る扉があり、そこから先はもう八百万の神様が住む別世界、神世だった。


 雅がいる世界とは全く違う景色が目の前に広がっている。


 その扉から神世を見渡していると何かが走り寄ってきた。それは中型犬程の大きさの白い狐だった。


「雅ー!今日から仕事だろ?乗せてやろうか?」


 この狐は使い魔の一種で小さい頃から祖母にこの世界に連れてきてもらう度に遊び相手になってもらっていた。


「コン!ありがとう。でも今日は近くの3箇所だけだから大丈夫。また今度、お願いするね!」


「オイラが必要な時はいつでも呼んでね」


 そう言ってコンは空に走り去って行った。

 去っていくコンに手を振り、行く先を見つめた。


「よし!じゃあ、行きますか!」


 気合いを入れて、ぼんぼりを掲げると行く方向へ炎が揺らいで行く道を教えてくれる。


 今日は仕事初めだから近くの神様の手紙を預けてくれた。しかし行く道のりは毎回次元が歪んだりして違うので、ぼんぼりの示す道を進んでいく。



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