第5話

「ハルト‼ハルト‼」

ドアを激しくノックする音で僕は目を覚ました。

「……夢…?」目をこすりながら おもむろに布団をおしのけてベッドに腰掛けた僕の頭はなんだかボンヤリしている。

「おーいハルト!どうした⁉」「お兄ちゃん!」 ママの声の後ろからパパとララの声まで。

あ、そうか…カギだ!僕は慌ててドアを開けた。  ドアを開けるとママが涙ぐ んだ顔で口をパクパクさせている。どうもママは気持ちが昂ると言葉に詰まるらしい。僕、チョット似てるかも。 こう云う時はパパの出番だ。

「寝てしまったんだな?陽気がいいからなぁ…でも、カギはかけないルールだよ」と、パパが言った。  「うん、ごめんなさい…つい…眠っちゃうと思わなかったから………ママ、ごめんなさい…」 ママはカフェエプロンの紐をほどいたり結んだりしながら 「………何かあった時、、、火事とか、鍵が掛かってると困るから…

ルールは守ってね」と鼻をすすりながら言った。ママはとても心配しただけで怒ってはいないと分かった僕は不意に、温かいものが身体中に流れている事に気付いた。


ママたちがリビングに戻った後、僕は机の時計を見て驚いた。僕が部屋に籠ったのはお昼前なのに、まだお昼前の11時だ。まさか⁉⁉ 確か今日学校に行ったはずだ。 でも、パパがいる………???

学校から帰ってきたら机の上に………招待状!招待状だ‼ 机の上には今も空の封筒が置かれていた。しかし、不思議な事には表も裏も書かれていたはずの宛名書きが消えている。

短いメッセージの便せんもない。僕はメッセージ通り招待状だけを持って、、、確か

回れ右を一回、回れ左を一回したんだ。 ハルトは記憶を辿って何度もクルクル繰り返してみたが変化はない。

めげずに何度も何度も繰り返しているうち突然ハルトの古い記憶のピースが一つ動き出した。

ハルトはパパのお下がりの机を使っている。一番大きな引き出しにはアルバムや、捨てるには忍びない思い出の工作などが保管されている。

「これだ‼」 ハルトが引き出しの奥から引っ張り出したのは幼稚園の頃一生懸命創作した工作物と絵である。絵は二枚。蝶ネクタイをした猫と使い古しのデッキブラシに長いマントをはおらせて腕組みのきめポーズ。

工作は一点。白無地の空き箱にママからもらったボタンを目にして 壊れたチャックを口にした覚えがある。鼻の形は難しかったから鼻の孔だけマジックで黒く塗りつぶした。腕や足は100均で買った工作用モール。あちこちセロテープだらけだ。

僕なりに「ものがたり」を創ったのだろうか?創ったんだ。

デッキブラシの怪人が暴れまわって皆が困っていたら、名高い蝶ネクタイのネコ探偵と弟子の四角い………

「四角い………え…と…名前………そう!四角いからキュービックのキュー!ネコはそのまんまキャット!デッキブラシはブラッシーだ‼」

ハルトは思い出せた事が嬉しくてコロコロ笑い出した。 実際、キューの出来栄えは酷いものだったが何ともいえない愛嬌がある。絵は幼稚園の先生に褒められたし

「ものがたり」を話すとたくさんの友達がハルトを囲んで目をキラキラさせていた。 その話をママにしたらとても喜んで、キューはしばらく居間に飾られていたくらいだ。小学校に行くようになったら絵はあまり描かなくなった。パパの勧めで体操教室には通っているけど、ゲームをしている時間が長い。一応ゲームができる時間は決まっているけどとても楽しい。でも、と、ハルトは思った。

ハルトは沢山の丼ものが懐かしかった。あれは夢だったと分かった今でも………

夢と云っても時間にして15分か20分足らずで、あんな濃密で楽しい出来事があった事じたい信じられない。どうしても会いたくなったハルトはリビングに行って

夢の続きを見るにはどうすればいいかパパとママに尋ねた。事情がのみ込めないパパとママはお互いの顔を見合わしていたが、しばらくしてパパが言った。

「そんなに愉しい夢だったのか?」「うん‼」 食い込み気味に答えるハルトに

ララが参入して言った。  「さや先生が言ってたよ。枕の下か周りに置けば見たい夢が見られるかもって」 「それだ‼それ‼ララ、すごい‼」サンキュー♪と言ってハルトは部屋に戻ると早速キャットとブラッシーの絵を枕の下に敷きキューをベッドの宮に置いた。 これだけでは足りないと感じたハルトは机を漁り画用紙とすっかりチビてしまった色鉛筆を探し出すと、先ず、「DON KINGDOM」の国旗を描いた。思い出せる限りの丼もので画用紙を埋め尽くすと、次は菜々さんやMCのカピバラ、ダンサーのオポッサムを記憶を辿りながら描き続けた。

一心不乱に描いていたらララがやって来て 「お兄ちゃん、ママがお買い物に行くから支度しなさいって」と言った。「え?今日はパスタじゃないの?」「うーん、わかんない、早く来て!」

そういう訳でランチはまさかのいつも通り、大型スーパーマーケットの中でお約束のハンバーガー、ポテトフライ、チキンナゲット ぽう♪

大満足でハンバーガーを頬張っている僕にママが 「晩ご飯何にしたい?」と訊いてきたので僕は咄嗟に、――全く予期せず―― 「菜の花丼」と答えていた。

ママだけじゃなくパパもララも目をパチクリしている。

「その、………昨日食べてないし………」 僕は照れくさくてそのまま口ごもってしまった。 こんな時、絶対助け舟を出してくれるのがパパだ。

思った通りパパが明るく言った。

「いいなぁーそれ!今日も菜の花丼が食べられる!昨日と同じコースってどお?手伝うよ!なぁ皆‼」 ララが「やったー!」と歓喜の声をあげると僕もつられて 

「サラダはパパと僕に任せて!」と、言っていた。作った事もないのに。

ママは 「はいはい!了解しました!」 なんて、言い方はそっけないがとても嬉しそうで幸せそうだった。 よかった‼


夜10時半過ぎ、菜の花コースを堪能し大満足の僕は、昼間描き増した菜々さんや

「DON KINGDOM」 の国旗等をベッドの宮に所狭しと並べると ワクワクどきどきしながら布団に潜り込んだ。


僕は空を飛んでいた。

一人ではない。右手を繋いでいるのは菜々さんだ。菜々さんの手を繋いでいるのは

MCのカピバラ、その隣はオポッサムの群れ。

僕の左側はキューだ。隣はキャットとブラッシー。

輪になって飛んでいると数基のグライダーが近づいてきた。ステーキ丼軍団だ。

僕は気付いた。

そうだ!夢だから何でもできる! 僕が望むこと、考えることは何でも叶う。

夢だけど、夢だからこそ何でもアリだ!会いたいと思ったらいつでも会える。

これは無敵だ。本当の戦争は人がたくさん死んで大キライだけど、丼の戦争は

菜々さんも言ってた通り平和じゃないとできないよね。

僕的にはカレーライスも無敵だけど 「DON KINGDOM」のポリシーは平和の象徴だ。無敵のキング。キングの上のキングだと僕は思っている。

さあ、新しい丼メニューを探索だ!             おわり



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DON WarS @0074889

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る