第4話
後半戦が始まった。
後半戦のトップバッターは前回のチャンピオン 中華丼だが
ハルトは、次の12番手のガパオライス同様 まだ食べた事がない。
給食で、中華丼風 ガパオライス風と云う○○風のなんちゃって丼は何度か配膳された事があるにはあったが意識高めの中華丼 ガパオライスは初めてだ。
ハルトは給食で食べた中華丼の味を思い出していた。不味くはなかったけど やたら
人参と白菜が多かったと記憶している。トロミのあんにつられて完食はしたがおかわりはしていない。ガパオの方は甘くて美味しかったけどひき肉が少なくてチョット
残念だった。
なので、本物の中華丼の豊富な具を見てハルトはビックリした。 見るからにプリプリの海老が踊っている。たしか…給食ではカニカマだった。
ガパオのスパイシーな香りにはカレーと同じ引力を感じる。
「へぇ…タイ料理なんだ」カレーはインドでガパオはタイ。きっと本物はカレーの様に美味しいに違いないから10点だ。
13番手は天丼。この国に迷い込んで最初に見た海老天丼と親戚の丼だ。海老は
やっぱりすごい海老反りで他の具材を圧倒している。ハルトは 僕 海老天だけなら無限に食べられる、と、5点のプラカードを立てて左隣を覗くと皆1点づつ…
ハルトは心配になってきた。皆 こんな低い点数って事は この後本命が出るって事なのか? まぁ…自分が「今」食べたいと思ったものなら持ち点の100点を全部つぎ込んでいいルールだからいいのか。
それでもハルトは自分の残り持ち点を確認して14番手のビビンバ丼に4点、15番手の豚丼に5点を入れた。
残り5品。残り点数は20点。この後何が出ても僕の№1はカレーで揺るがない、でも、何が出るんだろうと考えていたら 「私もそろそろ準備しなくちゃならないから後はよろしくね!」と、菜々さんが言った。
「えっ‼??? 菜々さんが出るの?」 と云う表情の僕に菜々さんは「菜の花丼よ」
と応えた。僕は再び「えっ???」と小さく叫びながら、あ、ダメダメダメ‼僕は自分の心に言い聞かせた。だって、心の声は 「菜の花丼だって?こんな王道ばかりの丼の中で? ムリムリムリ!だって、とっても地味だし美味しそうに見えないや………
あ‼しまった!何も考えるな! 菜々さんごめんなさい…違うんです!菜々さんの事を言ってるんじゃ………」
しかし、ハルトが一人悶絶していても サトリの菜々さんは淡々と16番手の焼き鳥丼、17番手のルーローハンに点数を入れるとスックと立ち上がりステージ奥の方へ消えて行った。僕はきまりが悪くて菜々さんの顔をまともに見られなかった。
左隣に並んでいる審査員の様子を探ると、猫は何食わぬ顔で肩肘をついている。
スナフキンマントの謎の審査員と目がボタンの四角い審査員は何やらヒソヒソ話を
している。 「あぁーー僕がサトリだったら二人が今 話している事が分かるのに…」と思った。すると、すました顔の猫が「ふふん」と笑った。
えっ⁉ ネコ、まさかお前もサトリ?
混乱した頭でハルトは18番手のスキヤキ丼、19番手の天津丼に5点づつ入れた。入れた後で、またしてもやらかしちゃった自分の鈍さに驚いた。菜々さんが
いるのに。残りはたった1点だけ。それじゃああんまりだ。盛り上げようがない。
ハルトの心配した通り、MCが菜の花丼とコールした途端会場がザワついた。
最終パフォーマンスを楽しみにしていた一部の客がブーイングすると、それは次第に大きな波となり、やがて会場はブーイングの嵐となった。
慌てたMCが必死に宥めるが 最早ブーイングの波に乗っかり興奮した客の耳には
届かず、特に、客席の一番前に陣取っていた「チーム・ステーキ丼」が激しいヤジを飛ばしてくる。ハルトは、その心無いヤジに耳を塞いだ。ところが、菜々さんはオロオロするばかりのMCからマイクをひったくるとステージ中央に立ち、客席に向かって 「静粛に――――――‼‼」と一喝した。ハルトも思わず背筋がシャキーンと
なった。MCのカピバラはこの声に完全にビビってしまい 全速力で審査員席の後ろに隠れてしまった。
「皆さん」 シーンとなった会場にマイクをジャックした菜々さんの声が静かに響いた。
「皆さんも知っての通り、DON フェスは料理の優劣を決める大会ではありません。
この大会を「DONWars」と表現する人がいます。まぁ、戦いには違いないので否定はしません。大会を盛り上げるための手段でしょう。しかし、常に伝統の意義と向上心とで競い合うのです。そういう意味で、このフェスは平和の象徴です!今回は保守的な丼ものが目立ちました。丼は自由です!次回は見たこともない丼を期待しようじゃありませんか!」
ハルトは内心しまった!と思った。ついつい菜の花丼を他の王道と云われる丼ものと比べてしまったからだ。なにをもって王道なのか…あくまでも個人の好みなのに。
菜々さんも何度か言っている「丼は自由」 自分が好きな食材を乗っければ丼なんだと。菜の花丼だって僕んちの場合、僕以外は皆大好物だし 菜の花を育てて送ってくれたおばあちゃんの家もきっと大好物に違いない。
「さて、私はご覧の通り菜の花丼です。あまりに地味で驚かれたと思いますが、ここで是非思い出して下さい」 会場は水を打ったような静けさだ。
「選手の皆さんは気付いていると思いますが どの丼ものにも私の存在があります」
ステージ奥のタレントたちが一斉に頷いた。
「私は引き立て役、第2、第3の副菜として重宝されがちですがメインになる事もできる。菜の花丼がそうです。豪華な材料は一切なし。ゴマ油で炒めて砂糖・醬油で味付けするだけの ザ・シンプルと云っていい逸品です!」
その時、会場奥の扉が開いてバニーガールからウエイトレスに変身したオポッサムがなだれ込み、客席の全員に何かを配り出した。それはホイルに盛られた菜の花丼で
会場がゴマ油と醬油の香ばしい香りで包まれた。
是非 試食して下さいと云う菜々さんの勧めでハルトも会場と一体になり、一口大の菜の花丼を搔っ込んでいた。とても美味しかったけど残り点数はわずか1点。
ハルトは、親子丼とガパオライスに入れ込み過ぎたと後悔したが 今一番食べたいと思ったのも事実だ。こればかりは仕方がない。
しかし、優勝はシラス丼だった。猫審査員の60点が効いている。
2位はルーローハン、3位は牛丼と云う結果に終わった。
「お疲れ様!ハルトさんの好きなシラス丼が優勝したね!ルーローハンは推しがハルトさんだけだったから伸び悩んじゃった」 そうか、、、僕だけか…
「ちょっと難しかった」と僕が言うと「そうね!どれが一番なんてその時の気分次第だから」と答えた。
MCが閉会の挨拶を始めるとステージ奥のタレントたちが前に進み出て 拍手喝采の中幕が下りた。
会場の外に出ると まだたくさんの人でごった返している。
「ハルトさん今日はどうもありがとう」 菜々さんが別れの握手を求めてきた矢先
突然僕の視界はハネ上がった。ステーキ丼が僕を肩車したからだ。しかもどんどん上空に………それもそのはずで、ステーキ丼はグライダーを着けている。
「ハルトさんさようなら、またいつか会えますように‼」と地上に残された菜々さんが言った。 僕はビックリした。えっ???これでお別れ?アッサリし過ぎじゃ
ない?
菜々さんや猫、スナフキンマント、四角い顔の人の姿がどんどん小さくなって僕は不安になった。このままアメリカまで連れていかれたらどうしよう………
すると、はるか下の地上にママの姿が。 膨らんだエコバッグを肩から下げているからきっと買い物帰りだ。
僕はありったけの声で「ママ―――――‼」と叫んだ。
つづく
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