第3話
一番目に躍り出た海鮮丼は さすがに過去3回も優勝をしているだけあって
堂々として自信たっぷりだ。
前回は新潟県で今回は岩手県。25年前の一回目優勝は青森県。岩手県かぁ
…ハルトは、三陸で津波があった所だと授業で学んだ事を思い出していた。
会場をぐるり取り巻く巨大スクリーンに映し出される海鮮丼。マグロ、イカ、
海老、タコ、イクラ、ウニと美しく盛り付けられた海鮮丼のパフォーマーは
舞台狭しと動き回り審査員にも猛烈アピールだ。 ハルトは海鮮丼の中央に鎮座している鮮やかな青物に目が止まった。菜々さん曰く料理を引き立てる彩りだが、ハルトは「何だろう…?」と考えながら 菜々さんのプラカードを覗き込んだ。
菜々さんは4点、左のネコも4点、その隣は、なんと2点。
「低すぎじゃ……」と、ハルトが思った時サトリの菜々さんが「決まった基準がある訳じゃないから、いま自分が食べたいと思ったものでいいのよ」 と言った。
なるほど、ひげもじゃの、人みたいじゃない人は今日は生ものパスって感じ?
二番手は牛丼だ。どれどれ…菜々さんメモによると、北海道は十勝の大牧場で育んだ
牛と玉葱。 「牛丼もいいなぁ…柔らかい肉に程よくしんなりした玉葱が 甘辛いタレに絡まって美味い!」
僕がたまに連れていってもらう店は紅ショウガがお約束だけど、さて、このパフォーマーは…ややや………! 紅ショウガの横にやっぱり青物があったりして。それはさておき、毎日牛丼は………うーん5点かな?
三番手は鰻丼かぁ。静岡の浜名湖?よく分からないけど高価なんだろうなぁ。
僕んちなんか一年に一回、丑の日だけのご馳走だ。パパとママが通販で買う
時、鹿児島産はいくら、愛知産はいくらって よくデイスカッションしてたけど。
四番手、秋田の親子丼。秋田のなんちゃら鶏だ。ふう~~~玉子がフワフワしてて
めっちゃ美味しそう‼ 10点あげちゃえ‼
五番、横浜の麻婆丼。あの麻婆でしょ?知ってるけどご飯にかけたことない。
六番、札幌のスープカレー丼。え?スープカレーってアリ?
普通のカレーの方が絶対いいのに…僕はカレーライスが一番好きかも。
お肉はごろごろがいい。チョット苦手な人参も無敵のカレールウがかかればチョチョイのチョイ。カレーライスなら毎日でもいいから80点は付けちゃうよ。
ハルトが思わずニヤニヤしていると、ここで、MCが七番手とコールした。
途端に会場の雰囲気が変わり大歓声が起きた。沢山のウサギがバニーガールのいで立ちで飛び出してきたからだ。ステージは七色のライトアップとゴールドの花吹雪が舞い、まるで優勝したかのようだ。思った通りステーキ丼。ハデハデだね。
でも僕はステーキも大好きだ。
ママとララはハンバーグって言うけどパパと僕はいつもステーキで決まりだ!
付け合わせのコーンもうれしい。 でも、パパが言ってたなぁ。出張で沖縄に行った時食べた石垣島のステーキが、多分パパの中では世界一だって。ステーキ丼がエントリーされてるのはアメリカだけ。石垣は最初からエントリーしなかったのか?
食べてみたいなぁ。
よし!ここはパパの顔を立てて アメリカのステーキだから渋く3点。
不思議だったのはコーンと一緒にじゃが芋、人参、ブロッコリーに混じって例の青菜がチャッカリ混じっていた事だ。 何だろう……… と思った途端「もうすぐ分かる」と菜々さんが呟いた。大歓声の中なのに、何故か耳元で菜々さんの声だけがハッキリ聞こえた。
沖縄からはロコモコ丼がエントリー。菜々さんメモによると、ハワイ発祥の人気メニューらしい。ご飯の上にハンバーグとか目玉焼きとか…なんかコテコテ…この丼も未体験だけどハンバーグが乗っかってるとご飯が食べやすいかも。5点。
次はシラス丼。家族で三浦半島にドライブした時食べたけどめっちゃ美味しかった!
僕、けっこう魚好き? 左隣のネコがなんと50点!そうだよね~!わかる~~!
其々の選手パフォーマンスが繰り広げられ 前半最後に登場したのはこれまた丼の王道カツ丼である。
ハルトは外食でカツ丼を食べた事はないが、ママがたまに作ってくれていたので身近な丼ものだった。その都度味が薄かったり濃かったり、煮すぎて玉子が固まったりと不安定だったが、カツは毎回冷凍食品の柔らか仕上げだったから それはそれで美味しく食べていた。
「どうだった?」後半戦が始まるまで15分のトイレタイムに入った。
菜々さんは大きなウオーターサーバーの所まで僕の手をひいて言った。「けっこう楽しいでしょう? 丼ものって何でも好きな物を乗っければ丼になるから自由なの、 カレーライスがなかったのは残念ね。カレーライスはDON KINGDOMでも国民食だから当たり前すぎてエントリーしなかったのかも」
菜々さんはコップに水を注ぐと僕に手渡してくれた。 隣のサーバーでは口がチャックの審査員が細いゴムホースの様な腕をくねらせて器用に水を飲んでいる。
「…どこだったかな…?」僕は、この四角い顔と手足がゴムホースの審査員とは絶対どこかで会っている気がしていた。 「あのう…」僕が声を掛けると四角い顔の審査員は半分しか開いてない口に 慌てて残りの水を流し込んだため、ほとんどを床にぶちまけてしまった。菜々さんがあらあらと言いながらすぐに近くにあったモップで拭きだす。 ネコと毛むくじゃらの二人は我関せずとすました顔で水を飲んでいる。 尤も毛むくじゃらの表情は見えないが。 大体、なんであんな毛むくじゃら?ネコの方は黒のタキシードに蝶ネクタイだが、毛むくじゃらの方は肩から足首まで煤けた色のマントで身を包んでいる。幼稚園の頃ビデオで見たムーミン谷のスナフキンみたいな………
でも、そうなるとネコの蝶ネクタイもオカシイや。長靴をはいた猫って童話知ってるけど蝶ネクタイでタキシードのネコっていたかな?
いくら「リアおと」でもアリスじゃないんだから。 よく考えてみたら変わった審査員ばかりだ。
ハルトは、何故自分が審査員として招待されたのか不思議でした。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます