第2話

その日の夕ご飯は ちらし寿司じゃなくて……ええと……

思い出せないけど、、、何か食べたような食べないような……みんな何を食べていたっけ? おかしな事には僕一人がダイニングテーブルで、ママやパパ、ララはリビングでテレビを観ていた。

次の日学校へ行ったけど、なんだか雲の上を歩いているみたく フワフワして授業もあった様ななかった様な……


学校から帰ると机の上に手紙が一通置かれていた。

封書の表書きは「ハルト様」と、なっていたが切手が貼られていない。

差出人は裏に「菜々」とだけ書いてあった。

ハルトは訝しく思いながらも封筒を開けた。中には「ご招待状」と書かれた分厚いハガキが一枚とクリップで挟んだ二つ折りの便せんが一枚入っていて、便せんにはこう書かれていた。

    ハルト様

突然のお便りで驚いていっらしゃるかも知れませんが、是非ともハルトさんに審査員を引き受けて頂きたいフェスティバルがあります。詳しいことはこちらにいらっしゃってから説明します。  あまり時間がありません。招待状を持って、まず回れ右を一回、次に回れ左を一回して下さい。

来て下さる事を信じています。  4月吉日 菜々

ハルトは考えた。もしかしたらまだ夢を見ているんじゃないか……しかし、夢にしてはリアルだ。さっきおやつのどら焼きも食べた。いや、食べたような気がする。ドアに耳を押し当てるとリビングの方からママとララの笑い声が聴こえる。夢じゃない。 僕はそっとドアを開けてトイレに入った。出かける前は必ずトイレを済ますのがルールだから。

僕は上着を一枚羽織ってハンカチとテッシュをポケットに捻じ込んだ。これもルール。黙って出掛けるのはちょっと気が引けるから、玄関を出る時リビングに向かって大声で「行って来ます!」と声をかけた。ママの返事はなかったけど、どうせすぐ帰るし、フェスティバルって響きが楽しそうだ。

僕は招待状を手に持って回れ右をした。あれ?一回転したかな? まあいいや!次は

回れ左、えい‼


ハルトはいきなりフェス会場の広場に立っていた。

沢山の屋台が並んで、どの屋台も大賑わいだ。しかも、フェスティバルと云うだけあって皆ハロウィンの様な出で立ちだ。特に被り物が凝っている。僕の目の前にいる人の被り物は見たとこ海老天丼? 海老の尻尾のカーブがお城のしゃちほこみたいでお見事! 隣りの人は……ああ、カツ丼だね。それにしても凄いクオリティー‼  僕は思わず自分の頭に手をあてた。

僕も何か被った方がいいのかな……と考えているところへ 「ハルトさんね」と声をかけてきた人がいる。  全身 黄緑色の衣装をまとった女の人がにこやかに佇んで言った。  「ハルトさん、よく来て下さったわ!どうもありがとう!私が招待状を送った「菜々」です。初めまして」 菜々さんが頭を下げたら、菜々さんも被り物をしていて僕はびっくりした。  この様子では仮装してないのは僕だけ?やばくない?と、思った矢先 菜々さんが僕の心を読み取ったように言った。

「ハルトさん、ハルトさんは仮装なんてしなくていいのよ。周りの人たちをよく見てごらん」

僕は菜々さんに言われるまま 屋台に並んでいる人たちを観察した。

そして気付いた。カツ丼の屋台に並んでいる人たちは皆カツ丼頭だ。大人たちばかりじゃない、おしゃぶりを咥えた赤ちゃんまで頭がカツ丼じゃないか!

隣りの屋台は海鮮丼らしいけど、やっぱり並んでいる人たちは全員頭が海鮮丼だ!

これは…何かヘンだ……と、思った瞬間またまた菜々さんが僕の心を見透かした様に言った。  「分かった?」「…………」眉根を寄せて考え込む僕に菜々さんは続けた。

「この国は「DON KINGDOM」と云って、国民全員の頭部分が何かしらの丼物なの。今日は3年に一度の大会なんだけど、ハルトさんは特別審査員として招かれました」と、言う。  僕は面食らった。素直に喜んでいい状態じゃない。こんなヘンな国、地球儀にあったか?。 すると、またまた菜々さんのサトリが……

菜々さんはポケットから布切れを出すと僕の目の前でふわりと広げた。

布には、天丼・カツ丼・うな丼、その他たくさんの丼物が色とりどり びっしりとプリントされていた。

「DON KINGDOMの国旗よ」 僕はつくづく国旗を眺めて、なんだかアメリカ合衆国の星条旗みたいだなと思った。 でも、これについてはサトリの菜々さんは沈黙してた。

「ところで、どんな大会ですか?」と聞くと菜々さんは「今年一推しのDONを決める大会よ。前回は中華丼だった。と、云っても中国じゃなくて日本独自の中華丼。愛知県を中心に広まったわ。2位はステーキ丼、こちらは宮崎県。今回も本場のアメリカが首位奪還を狙って乗り込んでるわ」 「アメリカのステーキ丼が優勝したのはいつ?」

「20年以上も前よ」「…へええ…」

すると突如、頭上に轟音が響き渡りフェス会場に集まっていた人たちが「おおおおおーーーーー‼」と声をあげた。 ホバリングしている3機のヘリから星条旗を模したグライダーが次々投下してくる。

「ふん、アメリカからの参加者よ。さ、そろそろ始まるわ。審査員席に移動しましょう」 菜々さんは僕の手を取って走り出した。 いや、走ると云うより滑るようだ。

群衆の中を誰にもぶつからず……こういうの何て言ったか……ぬう?そうだ縫うように。 そういえば、アメリカって何につけてハデだよね。映画スターみたいにグライダーまで使って演出するんだ。

僕は菜々さんの案内でステージ右端、2番目の審査員席に着いた。菜々さんが審査員なのはまあ、アリと思うけど、驚いたのは僕の左隣に座った審査員が蝶ネクタイをした「猫」。その隣が顔中ひげだらけで もはや人間なのかそれ以外なのか全く不明だ。その、また隣の人……?いや、人じゃない。四角い顔に、一応目鼻は付いてるけど 目はボタンだし、鼻は穴が二つマジックで描いてあるだけ。口に至っては僕のズボンに付いているチャックと同じ。 これ……どこかで見た事がある。

どこだったか………

僕が一生懸命考えていると銅鑼が3回鳴らされた。 フェスの始まりだ。

ステージの左袖からMC役のカピバラが現れると、会場が揺れるほどの拍手喝采だ。

そして、MCのもったいぶった進行で きらびやかな衣装を纏ったオポッサムが両袖からわらわら現れると愛くるしいダンスで 益々会場を盛り上げ始める。

いよいよ始まりだ。

MCがエントリーワン!と声を張り上げると ステージ後方に陣取っている参加者が一人立ち上がり前に進み出た。一番目は王道の海鮮丼だった。菜々さんメモによると、過去に三度の優勝を飾っている強者だ。

僕も海鮮丼は大好きだ。特にイクラがいい。イクラだけでもいい。ん⁉ 海鮮丼の端っこの青菜は?   「彩りよ」 不意にサトリの菜々さんが言った。ホントに

何でも解っちゃうんだ。

審査は自分が好きだと思う「推し」の参加者に持ち点を振り分けていく。持ち点は審査員一人につき100点。参加者は厳しい予選を突破した20人で順番はランダムだから、うまく配分しないと後半苦しくなる。かといって、出し惜しみしていると終盤に出て来た「推し」じゃないDONに放出する羽目になるどころか、持ち点はすべて使い切らなければ失格となってしまう。

ハルトは迷った。海鮮丼は大好きだが、毎日食べたいとは思わない。

何点が妥当かどうか………5点? 4点?  ハルトはコッソリ隣の菜々に視線を向けたが、しまった‼サトリ………‼ と、気付いた時は既に遅く、菜々さんは点数を書いた紙をしっかり伏せていた。          つづく

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る