DON WarS

@0074889

第1話               遠之 えみ作  

僕はハルト

小学4年生。この前不思議な事があって今ここにいる。ここは山の頂上でも海の底でもないが、僕の住んでいた町でもない。

この町の人たちはチョット変だ。外見は僕と同じだが首から上の顔、正確には額から上の頭頂部分が違い過ぎて 初めは被り物かと思った。

幼稚園の頃先生が読んでくれた本の中に、頭から柿の木が生えたり、雨が降ると池になって魚が釣れたりするおとぎ話はあったけど、あくまでも絵本の中の事だ。

でもここは、リアルおとぎの国だ。リアルと言って、おとぎの国っておかしいけど他に思いつかないから「リアおと」って事で。

センスない? まあまあまあ……

昨日…いや、一昨日?  ハッキリ思い出せないけど、僕はママと喧嘩して、ふてくされて部屋にこもっているうち いつのまにか寝てしまった。

喧嘩の原因は「菜の花」

千葉で兼業農家をやっているママのママが2年ぶりに送ってくれた「菜の花」を見て僕はガッカリした。でも、大きな段ボール箱にびっしり詰められた菜の花にママは大喜びで「菜の花コース」なる献立表をつくり、やはり菜花好きなパパと小1の妹から拍手喝采を浴びていた。

おばあちゃんは好きだけど、菜花は好きじゃない僕はどうしたら菜の花コースから逃れられるか真剣に考えた。そこで、ベタだがお腹が痛い事にした。

薬は嫌だったけど菜の花コースに比べたら一瞬だ。


夕食のテーブルは菜の花コースで埋め尽くされていた。

天ぷら、ごま和え、サラダ、菜花丼……  僕は必死の演技で、これらコースを逃れ

ママが作ってくれたお粥に海苔のふりかけをかけて食べていたのだが、皆、美味しいおいしいと言って次々平らげていくので、天ぷらくらいなら、と、思ったがそこは我慢だ。僕は物足りないお腹を抱えながらベッドに潜り込んだ。こんな思いをするなら天ぷらとサラダくらいなら食べても良かったと思いながら。

翌日は日曜日だった。

日曜日はいつも家族でちょっと遠いが、何でも安い大型スーパーマーケットまで買い出しに行く。

ランチは大抵スーパーの中のハンバーグ店だからエキサイティングだ。 ぽう♪

ところが……

僕は次のママの一言に凍り付いてしまった。

「今日も菜花メインでいいわよね?お肉も魚も先週ごっそり仕入れて冷凍してあるから、野菜だけなら近所のお店で間に合うわ」 オーマイゴッド‼

勿論、パパも妹も異論なしだ。僕は?僕の意見は?  するとママは「昨日はハルトが残念だったから、今日はちらし寿司にしてあげるね!」と言った。

「…ええと、お昼は?」と、情けない顔で問う僕に、ママはドヤ顔で 「冷凍しているトマトがあるからパスタにしよう!」と言った。勿論、菜花たっぷり……

「わああ~~~い‼ ママのパスタ日本一‼」と、妹がママの周りをクルクル回り出した。その挑戦的な姿にイラついた僕は思わずクルクル回っている妹にケリを入れてしまった。つまずいてダイニングテーブルの丸い角に激突した妹は予想通りハデに泣き出した。 いや、予想以上……

すぐさまリビングにいたパパが飛んで来て僕を羽交い締めにした。 ママは顔を歪めて口をパクパクさせている。

パパに 何故こんな事をするんだと訊かれても、僕は身体中に見えない鎧を纏って

カチンコチンに固まっているばかりだった。

妹はケガをおった訳ではないが、僕が妹に乱暴を働いたのは初めてだったから心の傷は残ったかも……

パパが妹を宥めながらリビングに戻るとママが僕に言った。

「何が気に入らなかった?ちゃんと話してくれるよね?」 ママはすぐ目の前にいるのに とても遠くにいる様な気がした僕は不安に急き立てられて つい、本音を吐露した。

「…菜の花……」 ママの瞳に「?」マークが映った。

「……嫌いなんだ……」 ママの目が丸くなった。僕は覚悟をきめて一気に言った。  「嫌いなんだ!葉っぱ‼」  ママの瞳に怒りが滲みだしたのが分かったが今さら後には引けない。どうやら、全てを理解したママは突然 「ララに謝りなさい‼」と、厳しい声で言った。

僕は、妹には悪いことをしたと自覚していたから 素直にパパの首ったまに引っ付いて僕を恨めしそうに見ている妹に「ごめんなさい」と頭を下げた。妹がコクリと頷いたのでこっちは一件落着だ。でも、ママの方は手厳しい。

「さっき葉っぱって言ったよね⁉ そりゃ葉っぱには違いないけど、折角おばあちゃんが送ってくれたものを……おばあちゃん病気で2年も好きな畑仕事ができなくて……それが、やっと出来る様になって……」

「ごめんなさい」 「この間まで食べていたじゃない…それならそれで最初から言えばいい」 お言葉ですが、ママはこの間って言うけど何年も前だし、その時はよく分からないで食べていたに過ぎない。「おばあちゃん、皆が喜ぶと思って沢山送ってくれたんだよ」

「……うん…」 「仮病まで使って呆れた!」「ごめんなさい…」

確かに僕が悪かったけど、お説教が長くて またイライラしてきた僕は つい、「ウルサイなあ、もう、わかったよ!」と言ってしまった。案の定ママは「なんて⁉」と

つっかかってくる。そうすると僕も突っ張ってしまってとうとうケンカだ。

パパと妹が心配そうに様子を見ている。

こうなると何日かは気まず~い時間を過ごさなければならなくなる。

分かっているのに……大体、いつも説教が長過ぎるのがいけないんだ。

居心地の悪さに我慢できなくなった僕は 「もう!分かったから‼」と言って部屋にダッシュすると鍵をかけた。 内カギをかけてはいけないルールも破って……

ベッドに潜り込んで頭から布団を被る。ママがドアをドンドン叩いてノブをガチャガチャさせて「開けなさい!」と怒鳴っていたが僕は布団をギュッと掴んで黙っていた。  暫くすると諦めたママの代わりにパパの声が聞こえてきた。

「ハルト落ち着け、気が済んだら出ておいで」

僕はパパのこういう大雑把なところが好きだ。ママみたく重箱の隅をつついてくる様な攻め方は決してしない。

でも……草と言って、おばあちゃんには悪いことをした。そんなつもりじゃなかった。 だって、菜の花の天ぷらは美味しそうだったし、サラダだって、ゆでたまごもハムも乗っかってた。  ララはチビスケのくせに……なんで…苦いごま和えも好き…なん…だ…          ハルトはぽかぽかの布団の中で色々考えながら、いつしか深い眠りに入っていた。

                          つづく

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